電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第347回

EV普及のカギは急速充電器


充電時間短縮に向けて高出力化が進展

2020/4/24

 世界的な環境規制の高まりを背景に電動車需要が堅調だ。㈱富士経済によると、2018年の世界市場は前年比31.2%増の425万台で、内訳はハイブリッド車(HV)233万台、電気自動車(EV)130万台、プラグインハイブリッド車(PHV)62万台となった。一方、35年の予測は4090万台で、EV2202万台、PHV1103万台、HV785台と、EVとPHVがHVを抜くとみている。

 こうしたなか、一躍注目されているのがEVやPHVの充電インフラである急速充電器だ。特にEVを本格的に普及させていくうえでは不可欠であり、自動車メーカー各社の事業戦略とも密接に関わってくる。すでに高出力350kW機も登場しており、ガソリン車の給油時間と同程度の充電時間も実現している。急速充電器の動きを追ってみた。

 充電器にとって最も重要となるのが充電時間だが、これは充電器の出力によって決まってくる。一般家庭などで使われる普通充電器は、電圧100Vまたは200V、電流15~30Aで、出力は電圧と電流の積である1.5~6.0kWとなる。充電時間はEVが搭載するリチウムイオン電池(LiB)の容量にもよるが、7~15時間程度だ。

 一方、急速充電器は電圧と電流を向上させることで出力を大幅に高め、充電時間を短くできる。例えば、国内規格「CHAdeMO」は電圧450・500V、電流20~200Aで、出力は50kWなどとなる。充電時間は、同じくEVのLiB搭載容量にもよるが40~80分程度だ。なお、充電時間は単純にLiB容量と出力の比で計算できない。LiBは7~8割充電されると、それ以上は充電速度が遅くなるためだ。

高出力化進む

 次にCHAdeMO以外の急速充電器の規格について説明する。世界的には「Combined Charging System(CCS1)」、CCS2、「GB/T」、「スーパーチャージャー」などがあり、CHAdeMOを含め、これら5つが代表的だ。それぞれの出力を見てみると、CHAdeMOは50kWが中心で、より高出力の90kW、100kWも製品化されている。一方、CCS1/CCS2が50~350kW、GB/Tが50~150kW、スーパーチャージャーが72kW(Supercharger V1)、145kW(同V2)、250kW(同V3)となっている。現状、CHAdeMOが最も低く、CCS1/CCS2が最も高い。


 高出力化により充電時間も飛躍的に短くなっている。LiB搭載容量や、前述のように充電速度が遅くなることから一概には言えないが、10分前後まで短縮したもよう。急速充電器大手トリティウム(オーストラリア)は「175kW機(「Veefil PK」)の約10分の充電により、EV航続距離として最大350kmを実現する」と表現している。

 今後もさらなる高出力化が進んでいく見込みだ。CHAdeMOでは、策定団体であるCHAdeMO協議会が23年までに250kWを導入していく計画。ただし、中国のGB/T陣営と900kWの統一規格を策定していく取り組みも進められており、先行きは不透明となっている。また、CCSは22年までに1000kW、スーパーチャージャーは21年までに500kW(同V4)を導入していく計画だ。

 一方、高出力化によりケーブル発熱量が上がることから、ヒートシンクが大きな課題となっている。冷却方式は50kWなどの低出力機では空冷だが、高出力機では液冷が一般的となっている。ただし、ケーブルが太く重くなり、かつ高額となる。そこでパワー半導体を使ったタイプも登場している。後述するABB、エファセック、トリティウムといった大手メーカーはパワー半導体搭載モデルを市場投入している。

中国が最大市場

 次に市場動向およびメーカー動向について述べる。富士経済によると、19年はコネクター(ケーブル)累計出荷本数で28万本弱に達した。国別では中国が約8割を占め、以下、米国、日本、ドイツ、英国、フランス、ノルウェーと続く。

 中国は世界最大のEV大国であり、中央政府の補助金制度により設置台数を急激に増やしてきた。ただし、最近は同制度が緩和されたこともあり鈍化傾向にある。米国はZEV規制導入を進めるカリフォルニア州ら11州を中心に普及。日本はPAやSA、それに日産自動車や三菱自動車工業などの系列ディーラーで設置が進められてきた。環境規制が進む欧州では、EV導入に伴い設置台数が急速に増えている。ドイツ、英国、フランス、ノルウェー、イタリアなどでは350kWなどの高出力機の導入も目立つ。

 メーカーでは青島特来電、星星充電、普天新能源といった中国トップ3がそのまま世界トップ3となる。中国メーカーを除くとテスラがトップとなり、ABB(スイス)、エファセック(ポルトガル)、トリティウムなどが大手だ。

 一方、日本市場では東光高岳、ハセテック、ニチコン、新電元工業などが有力だ。東光高岳は日産自動車向けに提供し、累計設置台数では長年にわたりトップを堅持。SAやPA、コンビニエンスストア、道の駅など国内で約3000台以上の販売実績がある。ニチコンは、自動車ディーラー、道の駅、マンション、宿泊施設、ショッピングモール、スーパーなどに数々の設置実績を持つ。


欧米は充電ネットワークが貢献

 欧米では「Electrify America」および「Ionity EU」といった充電ネットワークを展開する企業が普及に貢献している。Electrify Americaはフォルクスワーゲンの子会社。米国全土にCCS対応機を設置し、充実した料金システムや、スマホアプリによる充電スポット検索などでユーザー数を獲得することに成功している。設置数は、ステーションで420カ所、急速充電器で1953台。なお、ステーション数は近く98カ所追加される予定。

 一方、Ionity EUはダイムラー、フォード、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェなどが共同出資で設立。EU圏内で気軽にEV充電ができるインフラを整えることを使命としている。kWベースの課金システムや、上記自動車メーカーが展開している充電利用サービスなどを特徴としている。現在のステーション数は225カ所。また、20年内に400カ所設置する計画があり、うち47カ所を設置中だ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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