この数年間にわたって、半導体をはじめとする電子デバイスの成長を牽引してきたのは、何と言ってもスマートフォンであろう。しかしながら、普及が加速することによって、成熟状態になっていることは否定できない。2018年には世界出荷15億台はあったが、2019年は14億台程度まで落ち込んだと思われる。しかし、2020年は東京オリンピック効果、さらには米国の経済成長が引っ張り、かつ中国の5Gスマホが活躍するなどの予想があり、スマホの台数は数%持ち直すと見られていた。
ところが、である。新型コロナウイルスの影響はスマホを直撃した。世界のスマホの最大市場である中国においても、2月の出荷台数は前年比55%減の634万台にとどまった。スマホの分野で世界トップをいくサムスン電子は、2020年のスマホ出荷台数予測を3億台から2億8500万台に下方修正したが、さらにこれを下回るという予想も出ている。
中国のファーウェイは、もっと厳しい見方をしている。「世界すべての出荷台数が前年比2割減と予測」と一部で報道されている。ファーウェイをはじめとして中国では、スマホの在庫が積み上がってきた。世界3番手のアップルは、サプライチェーンが中国に集中しており、これがあだとなっている。さらに、中華圏以外の世界のすべての直営店460店舗を一時閉鎖している。おそらくアップルは、大手3社の中でも一番の影響を受けるだろう。
このスマホに与える大打撃により、世界の半導体総売り上げにも間違いなく負のインパクトが出てきた。スマホをはじめとして民生家電は、おそらく2020年夏頃まで前年比マイナス40%と低迷することになる。しかし、5G通信インフラのインパクトは消えているわけではなく、基地局に対する投資は夏以降に一気加速する。そしてまた、半導体デザインセンターに対する投資も50%増になると言われている。
半導体を成長させる次のアプリとして期待される自動車産業についても、ズタズタどころか、メタメタと言ってよい状況である。世界の自動車販売台数の3割を占める最大市場の中国の落ち込みは、自動車各社のマーケティングおよび投資戦略にも影響する。もともと、中国の新車販売台数は2018年でマイナス4%、2019年でマイナス12%と見られており、2020年は中国政府の公式発表ですら、マイナス2%と言っていたのだ。新型コロナウイルス拡大によって、この2%がもっと大きく下ぶれしていくだろう。
完成車メーカーの状況を見ても、2月についてはひどいものであった。ドイツの雄であるフォルクスワーゲン、さらには米国の雄であるGMの2月の販売台数は前年同月比で90%も減っている。トヨタ自動車など日本勢も70%以上の大幅減となっている。
そしてまた、新型コロナウイルスの一大感染拡大を反映して、トヨタ自動車など日系メーカー7社は、米国での自動車生産を一時すべて休止する。欧州についても、すべて生産休止を決めており、国内工場もかなりの数が生産休止に入っている。これで、日本の完成車メーカー7社の生産規模は一時的に5割も減る見通しであるのだ。
日本自動車部品工業会によれば、北米への輸出額は2018年に1兆7965億円となり、部品輸出全体の3割を占めていた。北米における生産休止は日本国内の部品メーカーにもすさまじいマイナスインパクトを与えることが必至なのである。
新型コロナウイルス急拡大でも
SONYのCMOSセンサーは揺るがない
(ソニー熊本)
そしてまた、プラグインハイブリッド車、EV、燃料電池車などの次世代エコカーに対する巨大投資が一時的にはストップするわけであり、これは日本勢が得意とするパワー半導体メーカーに多くの影響を与えるだろう。自動走行運転に対する投資も減速の方向になるであろうし、これに伴うマイコンやGPUなどの半導体にも悪い影響が出てくる。もちろん、メモリー搭載が増えるわけであったが、これまたトーンダウンを余儀なくされる。
いまや国内トップの半導体メーカーにのし上がったソニーも、スマホの中国販売減速、さらには自動走行運転の繰り延べなどが影響し、3月13日時点で株価の下落率がマイナス21%を記録した。しかして、ソニーのすごいところは、この新型コロナウイルスの感染爆裂の中でも黄金武器のCMOSイメージセンサーはほとんど影響を受けていないのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。