電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第377回

トヨタは中国天津に1300億円で新工場、NTTと提携しスマートシティも展開


~TSMCの米国新工場など「コロナに負けるな」のアドバルーン続々~

2020/4/3

 新型コロナウイルスの猛威が世界で吹き荒れるなか、自動車業界はおろか、世界の人たちをあっと驚かせる報道が3月2日になされた。すなわち、日本を代表する企業であるトヨタが、中国・天津に1300億円を投じ、新工場を建設すると言ってのけたのだ。

トヨタはPHVのプリウス、そしてEV、燃料電池車に展開し積極果敢の投資
トヨタはPHVのプリウス、そしてEV、
燃料電池車に展開し積極果敢の投資
 投資額は1300億円で、2020年代前半の完成を目指すという。生産能力は年間20万台程度、自社開発のEVのほか、提携するBYDのEVも生産すると言われている。新型コロナウイルスが蔓延している中国に向かって、トヨタは一大アドバルーンを上げたのだ。これはまた、世界の製造業に対し「コロナに負けるな。行くぞニッポン」という気概を示したこととして、大いに評価されて良いだろう。
 3月25日にはトヨタとNTTによるスマートシティの資本提携のアナウンスがされた。これまたサプライズの発表であり、約2000億円を相互に出資し、静岡、品川などに5Gを活用した様々な街づくりを行うというものだ。最大の狙いは、言うところのGAFAが支配するネットの世界をもう一度日本国内に取り戻したい、ということにある。

 そしてまた、いまや世界半導体生産ランキングで3位に浮上してきた台湾TSMCは、米国に巨大な新工場を建設することを検討し始めた。TSMCと言えば、革新プロセスのEUV(極端紫外線露光装置)を活用して、7nmレベルの量産にいち早く成功し、5nmレベルも量産移行が確定している。米国新工場では、1~3nmをやるとさえ言われている。世界半導体の微細加工プロセスで、ぶっちぎりトップに立った台湾TSMCがコロナの逆風の中で、これまた世界に掲げたアドバルーンではあっただろう。

 そして、メモリー半導体でぶっちぎりトップのサムスン電子は、中国の西安第2工場の操業を予定どおり開始した。3月10日に出荷記念行事を開き、8月までにフル稼働する計画を明らかにした。もちろん、生産するのは3次元NANDフラッシュメモリーであり、サムスンの海外唯一の半導体メモリー工場となる西安新工場は、さらなる拡大に向かっている。このサムスンの姿勢に勇気をもらった人も多いだろう。

 日本国内においては、旅行会社最大手のHISが、100億円を投じて長崎県佐世保市に次世代のペロブスカイト太陽電池の新工場を建設すると3月13日に報じられた。ニッポンのパワーデバイス企業も、水面下で続々と新工場建設を検討している。三菱電機、富士電機、ローム、東芝などは、この逆境下にあって、次世代エコカーに必要な最先端パワーデバイスの量産新工場を検討している。そしてまた、化合物系のパワーデバイスの新たな風となる運動が京都で生まれている。FLOSFIAというベンチャーカンパニーが、資金調達に成功し、2021年までに世界初の酸化ガリウム型パワーデバイスの新工場建設に踏み切るというのだ。

 いつにかかって、「製造業の絶対勝者」は大不況時に積極設備投資を断行したかどうかにかかっていた。それゆえに、ニッポンの自動車産業は、この時期にこそ、トヨタのように積極果敢な投資を実行しなければならない。そしてまた、シュリンクしてきた趨勢を跳ね返すべく、ニッポン電子デバイス産業も根性を見せつける果敢な投資に踏み切ってもらいたい、と切に願っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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