電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第376回

コロナウイルスで大暴落したのはアメリカ、ついにダウ平均2万ドル割れ


~一方、中国株は傷が少なくほとんど変わらずという事実が語るもの~

2020/3/27

 「これは驚くべきことだ。3月18日のニューヨーク株式市場はダウ平均1338ドル安となり、3年2カ月ぶりに2万ドルの大台を割り込んだ。しかして中国の株式時価総額はこの間アップダウンはあっても、あまり傷は受けていない。すなわち、ほとんど下がっていない」

 かなり真剣な目をしてこう語るのは、東海東京調査センターで企業調査部のシニアアナリストの任にある石野雅彦氏である。石野氏は長く半導体をウオッチしてきたことで知られるが、その鋭い分析は度々にして業界を驚かすことがあるのだ。

コロナショックの中にあって中国株はあまり傷ついていない(上海の街み)
コロナショックの中にあって中国株は
あまり傷ついていない(上海の街並み)
 さて、全世界の株式時価総額は20年1月20日時点で約9800兆円(過去最高89兆ドル)であったが、もちろんこれまでは米国市場が世界の40%を占有してきた。しかして、ここにきて米国市場を中心に大暴落ともいうべき状況で、世界全体で25兆ドル(3月17日時点、2700兆円)の損失と、時価総額の3分の1(28%)が吹っ飛ぶということになった。ところが、である。中国の株式時価総額は武漢発のウイルス大騒動が世界中で巻き起こっている中にあって9%下落したが、約700兆円を維持しており、ほとんど変わっていないのである。

 もっとも、15年6月当時にはピークの1000兆円超に行ったのであるが、米国によって金融引き締めを無理やりやらされる感じで、いったんは500兆円まで落ちた。それからじりじりと上げて行って、700兆円まで来てからは、世界大恐慌とも言うべきコロナショックの中で、ずっとその水準を維持しているのだ。

 「中国の株価がこの騒動の中であまり大変動しないのは、まず先物取引を管理・抑制したことだ。また通貨が元をベースとしているためにマーケットをコントロールしやすい。そしてまたここに来て、5Gの比率を一気に拡大するなど、世界に先行した作戦展開が成功し始めている」(石野氏)

 ちなみに、電子デバイス最大手のBOEの時価総額はFPD工場の稼働率低下によるパネル需給好転が期待され、1月末の2兆5000億円から2月末には2兆9000億円にまで上昇した。もちろんサプライチェーンの影響はあるわけであるから、3月から4月の数字は分からないが、他国のエレクトロニクス企業に比べれば、中国のマイナス影響度が少ないのは全くの事実なのだ。

 そしてまた、スマホにおける5G搭載機の投入もすさまじく速い。中国スマホは5Gの搭載比率が20年2月時点の出荷台数ベースで、何と全体の37%を占めるに至っている。日本や米国がもたもたしている間に、先手を打って5G拡大を進めている。驚くべきことに、これから出てくる中国のスマホ新製品は実に69%が5G対応(2月の機種ベース構成比)という凄まじさなのだ。

 「ファーウェイのフラッグシップのスマホとも言うべきP40が3月26日に発表されるが、何とCMOSイメージセンサーやToFが6個使いと見られる。このうち5個はソニー製であり、1個はオムニビジョンと言われている。他の中国メーカーもファーウェイに追随して、CMOSイメージセンサーを大量に搭載することになり、5Gで世界に最先行していくだろう。ところで、こうした動きはソニー半導体の黄金武器であるCMOSイメージセンサーの一気拡大につながっていくことは間違いない」(石野氏)

 確かに中国においては、一般経済として今回のコロナウイルスのマイナスインパクトは非常に大きい。民生は大きく落ち込んでおり、百貨店売り上げ、外食産業、観光・ホテルなどの営業数字は全くひどいものになっている。しかして、製造業がそんなに大きく傷ついているかと言えば、それは違うという声がある。

 ある半導体装置部品の分野で圧倒的世界シェアを持つ日本のメーカーのトップは、驚きの表情で次のようなことを言っていたのだ。

 「半導体製造装置メーカーからはすさまじい発注が入り始めた。普通にやったら作りきれないくらいだ。このため当社の20年度における売り上げも20%近く伸びることも考えられる。実に素晴らしいのは、中国の半導体製造装置メーカーであるNAURA Technology GroupとAMEC(Advanced Micro Fabrication Equipment)からの発注がすごく来ている。これは中国がこの分野においては、あまり傷ついていないことを意味するだろう」

 石野雅彦氏によれば、この中国のNAURAの株式時価総額は1兆500億円、AMECは1兆3000億円となっており、過去2カ月で2倍以上上昇している。そしてまた、この急上昇はコロナウイルス問題が出てきてからであり、どう分析すればよいかをとても迷っているという。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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