車体のソーラーパネルで充電したエネルギーを活用しながら長距離走行を可能とする電気自動車(EV)が2021年にも登場しようとしている。こんな夢のようなソーラーEV「Lightyear One」の実用化にめどをつけたのは、オランダのクリーンモビリティー企業として知られるLightyear社だ。
創設者兼CEOであるレックス・ホーフスルート(Lex Hoefsloot)氏は、学生時代にオーストラリアで開催されたソーラーカーレースでクラスチャンピオンに輝いた経験があり、これが同社の創設とソーラーEV誕生の礎になった。来日したホーフスルート氏にソーラーEVの特徴や今後の展望などを伺った。
―― 自動車業界では電動化が進行している。
ホーフスルート まず大前提として、当社は他社とは開発姿勢が異なる。一般的なEVはバッテリーの消耗と航続距離が焦点となっており、バッテリー容量を上げて航続距離を延ばす競争が繰り広げられている。しかし、当社のソーラーEVはライフスタイルに合わせた車を実現することが目的だ。そのため、車体ボディーそのものにソーラーパネルセルを施して自家発電を実現し、バッテリーも活用して使用効率を最大限に高めている。たとえば、車を使用しない時間は当社のソーラーEVが自律的に太陽光を最も効率よく集められる場所へ移動して充電を行い、所有者が車を運転する際に蓄えたエネルギーを活用することも5年後には可能になる。
―― 定量的な指標は。
ホーフスルート 一例として、テスラのModel Sの場合、バッテリー容量100kWhで走行距離380マイルに対して、当社のLightyear Oneは60kWhのバッテリー容量で450マイルの走行距離を実現する。また、オランダで1年間実証実験した結果では、年間平均使用距離1万3000kmのうち、ソーラーエネルギーで年間8000kmまかなえたため、バッテリーで充電すべきは年間5000km分で済んだという事例もある。リチウムイオン電池の使用量を低く抑えることができるため、安全性も高まり、環境保護にも貢献する。
―― ボディーへのソーラーパネル設置方法は。
ホーフスルート 小型のソーラーパネルセル1000個以上を走行上安全なパネルに収め、屋根とボンネットに組み込んでいる。ソーラーパネル部分の面積は5m²程度であり、ソーラーパネルにフル充電した場合には1.25kWのパワー出力が可能となる。地域性や天候に左右されるため、100%のパワー活用とはいかないが、小型のソーラーパネルセルを使用しているため、太陽光が弱くなる曇り空や悪天候の折にも比較的高効率に充電できる。
―― その他の特徴は。
ホーフスルート エネルギー消費量を意識し、車体デザインを低空力抵抗にしている点や、車体の四隅にインホイールモーターを設けて、どの充電コンセントからでも高速充電を可能にしている点なども特徴だ。実証実験では1時間以内に最大570km分のエネルギー充電を実現した。
―― 販売開始時期は。
ホーフスルート 初代となる記念モデルの販売を21年末から開始する予定だ。この記念モデルは946台を計画している。ちなみに、当社社名は「光が1年間に飛ぶ距離」を意識して名付けており、946台という数字もこの概念に基づいている。記念モデルは1台あたりの価格が高額になる予定だが、一般使用を意識した量産販売を5年以内に見据えている。このタイミングでは1台約600万円で提供可能になるだろう。
―― 拡販計画、生産体制、日本での展望を。
ホーフスルート 23年の一般販売は欧州地域から開始し、米国、アジア地域と順次拡販していく。実現に向け、21年販売予定の記念モデルの生産拠点として、オランダ内に大量生産サイトを用意している。その先の米国、アジア地域への拡販向けには米国やアジア地域を候補地として大量生産体制の構築を準備中だ。
日本での展望について、本社のあるオランダよりも日本はソーラー充電に適した地域であることが気象データなどから得られている。日本でも先々拡販を意識しており、それを実現すべく車載向け最先端技術が集う日本でもパートナー企業を探している。
(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2020年3月26日号1面 掲載)