電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第375回

ニューコロナウイルスによる空前の世界大恐慌が濃厚になってきた


~米株は過去最大の暴落で日本株も急落、しかして半導体価格は上昇~

2020/3/19

 3月16日のことである。ニューヨークのダウ平均株価は2997ドルも暴落し、史上最大の下げ幅となった。3万ドルに届こうかというほどの上昇を見せていた米国株価は、たった1ヶ月あまりで約3分の1の時価総額が吹っ飛ぶ異常事態となった。韓国の株価も8%暴落で、取引が一時中断し、総合株価指数は1700を割り込んだ。そして日本の3月13日における東京株式市場では下げ幅は一時1830円を超え、取引時間中の下げ幅としては、バブル経済末期の1990年4月以来、約30年ぶりの大きさになってしまった。

 すべてはニューコロナウイルスの世界的な感染拡大がもたらしたことであり、3月16日時点で世界各国・地域で感染者数は17万5530人に達し、そのうち7000人が死亡した。中国では8万860人が感染し3213人が死亡。中国以外で被害が大きな国は死者が多い順で言えば、イタリア(死亡2158人、感染2万7980人)、イラン(死亡853人、感染1万4991人)、スペイン(死亡309人、感染9191人)、韓国(死亡81人、感染8320人)となっている(人数はいずれも本稿執筆時)。

今年の春は花見は自粛、屋形船もダメ。
今年の春は花見は自粛、屋形船もダメ。
 さてこうなれば、コロナウイルスの問題は世界経済のパニックに直結したと言い切ってよいだろう。米国や日本だけではなくEUにおいても、3月13日の下げ幅は平均して10%という惨々たる有様となった。なにあろう、リーマン・ショック以来の「世界大恐慌」の到来が濃厚になったといえるのだ。

 リーマンの時には基本的には金融業界の混乱が契機となって世界に波及していったが、今回の場合は世界すべての人たちに直接被害をもたらす疫病による被害であるからして、そのインパクトは限りなく大きい。結果として世界各国が入国を禁止することとなり、人や物の行き来はほとんどすべてが止まってしまった。イタリアなどはあり得ないことに国内すべての商業施設の閉鎖(薬局と食糧品店を除く)を打ち出したほどであり、世界各国の流通/物流/商業/外食/観光などにすさまじい被害をもたらしている。

 確かに中国政府は中国国内においては、ニューコロナウイルスのピークは過ぎたとしており、生産活動の一部再開も徐々に始まってきてはいる。世界の工場である中国が止まれば、サプライチェーンはずたずたになるのであり、まともな生産活動はできない。それゆえに中国の工場が動き出すことは、暗い世相の中で朗報とは言える。

 ただ重要なことは、世界最大の半導体消費国であり、そしてまた世界最大の生産工場でもある中国の消費意欲そのものがメチャメチャになっている。中国における2月の新車販売は前年同月比79%減、スマホ出荷は同55%減という有様であり、飲食業はここにきて7割以上の売り上げが減っている。観光業の春節期間の損失は8兆円を超えている。つまり、マーケットとしての中国が戻って来るには相当の時間がかかると言える。

 WHOからはニューコロナウイルスはパンデミック(世界的な大流行)との表明があっただけで、米国は欧州からの入国を30日間禁止すると決めた。米欧中の3大経済圏で人の移動が止まる前例のない事態に発展した。世界経済の損失額は2020年だけで100兆円を超えるともいわれている。もちろん我が国ニッポンのGDPもマイナス成長になることは確実であろう。

 かつてインバウンドで溢れかえっていた新宿・歌舞伎町の街並みもトーンダウンが著しい。それよりも我が国にとって重要なことは、トランプ大統領が「東京オリンピックは1年延期した方がよい」との判断を示したことであり、これまた日本国民の志気は衰えるばかりだ。日本企業はここにきて2020年度の売上計画・投資計画・マーケティング戦略をほとんど白紙に戻し、再構築のための社内会議が頻繁に開かれていると聞く。

 出口の見えない状況となってきたニューコロナウイルスによる「世界大恐慌」に怯える声は数多い。そして世界すべての株式市場は断然弱気の方向に入って来た。大型リストラをはじめとする雇用の悪化は目前に迫っている。「本当にもうイヤになっちゃうわ」とため息をつく女性たちは、決して明るくない顔で、それでも百貨店に群がっている。男たちはスポーツにもパチンコにも競輪競馬にも行かれず、居酒屋でうさをはらすこともできず首をうなだれているが、どんな時にあっても女性たちはたくましい。

 ちなみに5G革命の到来を予想し、ここに来て半導体の価格は需給バランスが変わって来たこともあり、一気に上昇し始めた。そしてまた液晶デバイスについてもこの先、価格はものすごく上がるだろう。それに伴い大型の半導体設備投資が今年下期から爆裂するという予想もあり、電子デバイス業界はこのクライシスの時こそ頑張らなければならない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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