商業施設新聞
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No.748

三井不動産の新ホテルブランドに見る「専門店」の力


高橋 直也

2020/3/17

 6月、東京都渋谷区に「MIYASHITA PARK」が開業する。三井不動産(株)が渋谷区立宮下公園の再整備事業として、公園だけでなく、商業施設、ホテルも設ける。商業施設には「LOUIS VUITTON」をはじめとしたラグジュアリーブランドが並ぶなど、「ここを新たなスポットにする」という三井不動産の気合いが伝わってくる。そして三井不動産の新ブランドホテル「sequence」も気合が入っている。

「sequence MIYASHITA PARK」のロビーラウンジカフェイメージ
「sequence MIYASHITA PARK」の
ロビーラウンジカフェイメージ
 同ホテルは街に開かれたロビーラウンジカフェなどを備える、いわゆるライフスタイル型ホテルだ。三井不動産が社外のクリエイターとタッグを組んで開発しており、ラウンジを含めた館内はデザイン性豊かで、ふらりと訪れたくなる。このラウンジでは宿泊していない人も仕事、コミュニケーションが可能であり、公園にもつながることから、緑を感じつつ良い雰囲気のラウンジで一休み、といったシーンも想像できる。宿泊者に対しては17時チェックイン、翌日14時チェックアウトという取り組みも面白い。これにより、渋谷のナイトエンターテインメントを存分に楽しんでから、ゆっくり寝ることもできる。

 仕事上、様々なライフスタイル型ホテルを訪れたが、成功している案件の多くは、街の特色が豊かな場所やカルチャー色が強い場所に立地している。MIYASHITA PARKはキャットストリート近くで、周辺は渋谷の中でもカルチャー色が強く、独特な雰囲気を持つ。MIYASHITA PARKの向かいには複合施設「渋谷キャスト」があるが、ここはクリエイターが働き、住み、交流・発信することなどをコンセプトにしている。こういったエリアにクリエイティブな雰囲気のホテルを設けるのだから、エリアにマッチし、滞在することで街の魅力を感じられるだろう。もちろんホテルなので、永続的に運営しなければならず、「箱が完成して終わり」ではない。日本のライフスタイル型ホテルは運営=地域の魅力などを生かすイベント展開などが弱いという指摘もあり、未来永劫、「良い運営」をしなければならないのだが、思わず期待したくなる施設だ。

 そもそも、ホテルにおいても潤沢な顧客基盤を持つ三井不動産が新しいブランドを投入するのは、こうしたライフスタイル系ブランドを展開していなかったからだと推測できる。三井不動産は自社ブランドとして「三井ガーデンホテル」という宿泊特化型ホテルを展開する。三井ガーデンホテルには何度も泊まっているが、チェーンホテルでは一番居心地が良く、寝つきが悪い筆者も唯一熟睡できる。ただ、ブランドのコンセプトとしては幅広い層を受け入れるホテルと言えるだろう。昨今は、デザインや価格に強みを持つなど何かしら「特技」が求められる傾向にある。ともすれば、クリエイティブな雰囲気を好む層の中には三井ガーデンホテルを利用しない人もいたかもしれない。しかし、今回のsequenceでそういった層を取り込むことができるようになる。

 ホテルが供給過剰になりつつあり、新型コロナウイルスの影響で、ホテル業界が苦戦するといった事態も起き、もはやホテルは2~3年前のように誰もがハッピーなマーケットではない。ホテルマーケットが厳しくなる前に着工して「しまった」ホテルも今後、次々に完成・開業していくだろう。インバウンドの数も伸びにくくなり、しばらく供給過剰感は強まるかもしれない。つまり、ホテルは「旅行者に選んでもらう」状況が顕著になり、そうなると選ばれるための強い個性が求められる。今後は「万人が使えるものの、満足度は80点」より、「特定の層にしか響かないが、その層にとっては満足度が120点」という業態が求められるかもしれない。さながらホテルの専門店化だ。商業施設でいえば、GMSと専門店の関係に似ている。GMSはかつて幅広い需要を取り込んだが、専門店の品揃え、商品力により苦戦している。ホテル業界では果たしてどうなるか。
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