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第365回

日本航空電子工業(株) 代表取締役社長 小野原勉氏


スマホが市況回復を牽引
車載・産機コネクター準備整う

2020/3/13

日本航空電子工業(株) 代表取締役社長 小野原勉氏
 東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、いよいよ第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始される。スマートフォン(スマホ)やパソコンに代表されるICT(情報通信技術)系をはじめ、ADAS(先進運転支援システム)から自動運転へと進化するクルマの世界、さらにはビッグデータを取り扱うIoTビジネスなども大きく様変わりする。アプリケーションを問わず、その共通点となるのが、データ処理量の増大と高速伝送である。半導体にこれまで以上の処理能力が要求される。当然、歩調を合わせ、受動部品も進化する。接続部品の代表格であるコネクターにも、大容量/高速伝送に向けた進化が要求される。次なるコネクター戦略について、日本航空電子工業(株)(JAE)代表取締役社長の小野原勉氏に伺った。

―― 2019年を振り返って。
 小野原 当初計画では、自動車市場は堅調に推移すると想定し、19年度後半には中国の設備投資も徐々に回復して半導体製造装置や工作機械などの産機・インフラ市場も回復に向かうと読んでいた。しかし、実際は、どのアプリケーション市場も底を打たなかった。総じて、厳しい環境下でのビジネスを強いられた年だった。

―― そうしたなかで、手応えは。
 小野原 中国スマホに動きがあった。11年ごろから社内でプロジェクトを組織し、中国ローカルのスマホ攻略に乗り出していたが、19年はさらなる拡大ができた。かつてのローカル企業も、現在は世界のスマホ市場でトップメーカーとして成長しており、19年は厳しい事業環境だったが、中国製スマホ用の基板対基板コネクターは、期初計画以上の好成績を成し遂げた。

―― その勢いに5Gが追い風になりますね。
 小野原 5Gの普及に伴い、カメラモジュールなど高機能化の追求を反映したハイエンドモデルの需要が喚起され、コネクターの搭載員数は増えるであろう。今年はスマホのさらなる躍進に期待したい。長期的視野で見れば、まずは周波数帯6GHz以下(サブ6)からスタートする。アプリケーションによってはサブ6で早くも搭載員数増の要求が出てくると推定する。
 そのうえで、28GHzをはじめとするミリ波帯が到来し、受送信のアンテナ周りで次なる商機が訪れる。技術的な面での対応力も準備しておく必要があり、新製品の開発を進めている。

―― ロケーション別で期待するエリアは。
 小野原 スマホ市場では、ローエンド、ミドルレンジモデルでのカメラなどの機能追加が進んでいる。そのなかでは、ハイエンドのみならずミドル、ローエンドモデル向けにも事業機会があり、アジア地域やアフリカ向けなどのスマホ需要が立ち上がることはプラスである。

―― 顧客から頼みにされる貴社製コネクターの強みとは。
 小野原 コスト競争力や高信頼性の確保は当然のことだ。これに加え、顧客が望む必要量をタイムリーに納品することであろう。自動化の推進で、安定供給の体制を構築している。また設備なども標準化を推進する。顧客ニーズに合わせ、設備転用や金型の変更で、様々なカスタマイズに応えている。

―― 車載コネクターの戦略は。
 小野原 これまでは、情報通信(インフォテインメント)系で、外部端末機器との接続用コネクターで強みを発揮してきた。今後は既存領域に加え、電気自動車をはじめとする環境対応車のバッテリー、あるいはインバーターを含むモーター駆動部に注力していく。大電流&高電圧対応コネクターの準備を始めている。またADAS向けでは、高精細カメラの映像情報とLiDAR(光検出と測距)などセンシング情報の両方に応える、高速デジタル伝送対応コネクターを市場に投入していく方針だ。

―― 「CEATEC2019」でフローティングタイプのコネクター「AX01シリーズ」を披露されました。
 小野原 新コネクターはロボットや自動機、工作機械など、産業機器市場をターゲットに製品化した基板対基板コネクターだ。XY方向+-0.5mmのフローティング構造採用で、嵌合時の位置ずれが吸収され、ロボットによる自動組立にも有効に機能する。接点構造は2点接点とすることで、接触信頼性も確保した。同時に伝送速度は、8Gbpsを超える高速伝送を実現させた。今回、嵌合高さ30mmの100極タイプを市場投入。今後、極数30~140極、嵌合高さ8~30mmの平行タイプあるいは垂直タイプなど、バリエーションを拡充していく方針だ。これにより、スマホを主軸とする携帯機器領域、車載領域、そして産機・インフラ領域の主力3市場を攻略する、当社戦略コネクターの製品ラインアップが整う。

―― コネクター以外の事業戦略について。
 小野原 UIS(ユーザーインターフェースソリューション)事業の取り扱う戦略デバイスが、静電容量方式のタッチパネル。これまで車載用途を中心に攻めてきたが、これからは工作機械の操作盤など、FAや産機市場にも販路を拡大する。この戦略と歩調を合わせ、ディスプレー部分の素材をガラス基板のみならず、フィルムタイプも販売開始する。大画面でも感度が良く、曲面化に対応するとともに軽量化も追求している。

―― ジャイロや加速度計など各種センサーを取り扱う航機事業は。
 小野原 同事業は航空宇宙分野から出発し、現在は民生分野にも大きく進出している。半導体露光装置に搭載するリニアモーターや油田掘削向けのセンサーなどに取り組む。今後は5Gと連動させ、遠隔操作に対応するセンシングモジュールなどを投入していきたい。建設業・農業などで省人化や人材不足の課題にソリューションを提供する。

―― 生産拠点の配備は。
 小野原 スマホ用コネクターは、弘前航空電子(株)(青森県弘前市)と山形航空電子(株)(山形県新庄市)の国内2拠点が量産を担う。

―― 海外工場での量産展開は。
 小野原 スマホ用途は顧客ニーズも厳しく、かつ供給数量の変動も大きい。多種多様なニーズにきめ細かく、迅速に対応するには、国内工場がベストとの判断が働いている。ただ、顧客ニーズを現地でキャッチアップすることも重要になりつつあり、海外拠点の強化も今後検討していく。

―― 車載用コネクターの量産は。
 小野原 車載用は国内外の複数拠点で量産している。うちJAEフィリピン工場では、さらなる増産に応えるため、19年春から第2工場の新棟(B棟)を稼働させた。新棟は平屋建てで、延べ床面積にして1万8100m²規模になる。

―― EUにおける車載コネクターの量産対応は。
 小野原 欧州向け自動車ビジネスを進めるなかで、EU域での拠点追加は大きな課題と認識している。とりわけ車載で不可欠のハーネスは全体量がかさばるため、物流コストも考慮し、ハーネス用の拠点追加が必要かもしれない。

―― 19年4月、台湾に新工場を取得されました。
 小野原 台中に隣接する彰化縣の工業団地内に新たに工場を取得した。新工場取得により、めっき工程、切削工程を含む内製能力を強化し、産機・インフラ向けコネクターの一貫生産を進める。台中市の既存工場とあわせて生産体制を強化し、事業拡大を図る。

―― 今後の設備投資は。
 小野原 各工場ともまだ生産スペースに余裕があり、現状は急速な対応を必要としていないが、需要に合わせたインフラおよび設備の投資は引き続き検討し、タイムリーに必要な判断をしていく。

(聞き手・編集長 津村明宏/松下晋司記者)
(本紙2020年3月12日号1面 掲載)

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