電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第372回

「LSIとパッケージ技術の境目がなくなる分野で勝負」


~福岡の三次元半導体研究センターはサプライズを世界に発信する~

2020/2/28

 「福岡の糸島は新たな実装プロセスを開発できる“実装特区”となっている。世界と勝負できる部品内蔵基板の量産に向けてのアプローチはかなりのところまで来ているのだ。ここから発信するサプライズ技術はニッポン復活の雄叫びと言って良いかもしれない」

 「確かにニッポン半導体は後退に次ぐ後退を迫られた。しかして、日本の電子材料は世界最強であり、半導体製造装置についても常に先端を走っている。実装基板はお家芸とも言うべき分野であり、こうした技術をクロスオーバーさせていけば、ニッポン半導体は必ずや復活を遂げることができると信じている」

 力強くきっぱりとこう言い切るのは、三次元半導体研究センター(福岡県糸島市東1963-4)で副センター長の任にある野北寛太氏である。野北氏は炭鉱の街として知られた福岡県田川市の出身、県立田川高校を出て千葉工業大学で金属工学を学ぶ。その後、三井ハイテックで13年を過ごし、ソニーセミコンダクタ九州の熊本工場の立ち上げに携わり、北九州のFAISを経て現在の任にある。

 三次元半導体研究センターは福岡大学の友景肇教授(故人)が旗振り役となって立ち上がった施設であるが、2011年の創設から10年目を迎え、第2フェーズへ突入している。この施設がすばらしいのは、シリコン半導体の加工工程(微細配線形成、シリコン穴加工、切断・研削加工、シリコンビアコイルめっき、絶縁膜形成など)とプリント配線/部品内蔵基板の工程(直線描画加工、機械加工、レーザー加工、電解・無電解めっき、部品搭載など)の2つを同じフロア内に持っていることだろう。

 「世界を見渡してみても、こうした施設はどこにも存在せず、オンリーワンの強みと言える。この開発拠点から工法の標準化、試験方法の標準化を発信している。つまりは技術のデファクト化を狙っている。部品内蔵基板の規格EB-01(試験方法)とEB-02(データフォーマット)は今や世界標準となっている。日本では非常に稀な例と言ってよい」

 こう語るのは、福岡大学の実装技術研究所で客員教授を務める加藤義尚氏である。加藤氏は、半導体の微細加工技術は飛躍的に発展したが、実装・パッケージ分野の進展は置いてきぼり、と指摘しており、このセンターの役割は非常に大きいと主張する。

 IoT時代を迎えて複雑な統合設計が盛んになる近年では、もはやLSI分野とパッケージ分野の技術の境目がなくなっている。こういう状況下で、研究開発も単独企業でのアウトプットは厳しくなる。どうしても、企業開発の壁を越えた開発環境が必要になる。まさに、このセンターの出番なのである。

 「2012年当時のセンター利用状況は147件程度であった。しかして2018年には466件まで跳ね上がっている。しかも県外利用が337件と多くなっており、県内利用の3倍近い。約70社の方がこの施設をフル活用しており、基板、ウエハーにまたがる機器利用が増加している。一番利用の多いのは材料メーカーであり、全体の47%も占めている」

 こう語るのは、同センターのエグゼクティブディレクターの任にある小林英次氏である。小林氏は九州松下電器で長く勤務され、米国パナソニックでも働いた経験があり、グローバルな視点でニッポンは勝負しなければならないと強く主張する。

 「三次元半導体研究センターがある糸島リサーチパークは福岡市から車で30分という至便なところだ。空港からもすごく近い。この立地条件の良さが全国から人を呼び寄せていると言えるだろう。そしてまた糸島は天然真鯛の水揚げ量が7年連続日本一であり、牡蠣がおいしいところとしても知られている。きれいな砂浜は観光地であり、サンセットライブでは全国のミュージシャンが集まってくる。伊都の国の古い文化も残っている。こういうロケーションで研究開発に従事することは、実に楽しいことだと思えてならない」

(左から)副センター長の野北氏、福岡大学の加藤氏、エグゼクティブディレクターの小林氏、福岡県の中尾部長
(左から)副センター長の野北氏、
福岡大学の加藤氏、
エグゼクティブディレクターの小林氏、
福岡県の中尾部長
 眼を輝かせてこう語るのは、同センターを運営する(公財)福岡県産業・科学技術振興財団 社会システム実装部・三次元半導体部の中尾浩史部長である。中尾氏は、かつての福岡県が蒔いた半導体関連産業の種が、今のIoTやEVなど、急激な社会変革への基盤技術となって大きく拡大・発展しようとしているという。

 三次元半導体研究センターは隣接する社会システム実証センター、九州大学伊都キャンパス、福岡大学、そして百道にあるシステムLSIセンターとも連動して、世界に発信するニッポンの夢を追い続けている。志半ばにして亡くなられた友景肇先生の想いを胸に戦う人たちの未来に栄光あれ!とエールを送りたい。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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