電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第362回

(株)デンソー 先端技術研究所 技術開発センター 担当部長 篠島靖氏/技術企画部 半導体新会社準備室長 工学博士 岩城隆雄氏


新会社MIRISE、4月始動
国内外の企業とビジネス展開へ

2020/2/21

篠島靖氏
篠島靖氏
 トヨタ自動車とデンソーの半導体先端技術研究開発を結集した新会社「MIRISE Technologies」(MIRISE)が4月から始動する。「世界のモビリティーに革新を与える半導体開発を行い、未来をもっと進化・向上させていきたい」という使命・熱い思いが、未来とRISE(上昇)を組み合わせた新会社名に込められている。
 トヨタ自動車からの出向という立ち位置で新会社の中核的役割を担うのは、(株)デンソー 先端技術研究所 技術開発センター担当部長の篠島靖氏である。篠島氏はトヨタ自動車内で半導体の研究開発が立ち上がった頃から半導体畑一筋に技術革新に挑み続けてきた人物で、電子部品全般、ECU、パワーデバイスなど半導体全般に造詣が深い。
岩城隆雄氏
岩城隆雄氏
 一方、デンソー 先端技術研究所側から半導体新会社準備室長の任を担うのは、技術企画部 先端R&D戦略室長(工学博士)の岩城隆雄氏だ。先端技術研究開発からセミコンダクター事業部での量産経験まで幅広い経験値を持つ。
 始動が目前に迫る新会社MIRISEの中心的役割を担う篠島氏、岩城氏に幅広く話を伺った。



―― まずは新会社設立に至った背景からお聞かせ下さい。
 篠島 従来からトヨタグループ内で意思疎通は図ってきたが、それでも車両側のニーズがコンポーネント側に伝わらないとか、各拠点間でオーバーヘッドが生じる部分があった。新会社ではこうした課題を解消し、車のニーズとコンポーネントとしてのシーズを融合させることが骨子となる。
 また、自動車向け半導体開発は、好不況に左右されることなく、長期的な視点での投資を要する。自動車の電子化が広がるなか、すべてをデンソーでまかなうことは難しい。新会社で研究開発した成果に対し、何をデンソーで生産し、他社に生産委託もしくは他社製品の調達でまかなうべきはどこかなどの視点を、トヨタ自動車、デンソー両社に迅速に伝達できる利点も生まれてくると見通している。

―― 新会社の位置づけは。
 篠島 車載半導体および周辺エレクトロニクスの先端技術研究開発を担う位置づけとなる。設立当初は、トヨタ自動車の半導体部隊250人が主に豊田市西広瀬町のデンソー拠点(現 トヨタ自動車広瀬工場)に出向、デンソー 先端技術研究所から250人が本社機能を担う日進市の拠点に出向する。そのほか刈谷市のデンソー本社内と品川にも拠点を持つ。あくまでも先端半導体のR&Dに徹する会社であり、生産はデンソー、トヨタもしくは他社委託となる。

―― 主要な技術開発領域を「パワーデバイス」「センサー」「SoC」と定めていますね。
 篠島 新会社の使命は「先進半導体エレクトロニクス技術でCASEが進展するモビリティー社会に新しい価値を創り出す」ことにある。CASEのうちA(自動運転)向けに「センサー」「SoC」、E(電動化)向けに「パワーデバイス」を主なターゲットに見定めた。

―― パワーデバイスに関して具体的に教えて下さい。
 篠島 自動車用パワーデバイスは高品質かつウエハーコストの低減が必須だ。そのため、新会社ではSiCウエハーの製造原理そのものに踏み込んでいく。SiCの開発では、昇華法での6インチ品は存在するが、当社ではガス法による低コスト・高品質単結晶成長法開発に取り組んでいる。すでに6インチ「SiCガス成長インゴット」の試作を行っており、20年代後半の量産化を目指していく。

―― センサーについて。
 岩城 ADAS向けカメラのCMOSイメージセンサーなど、他のデバイスメーカーが秀でている製品も多数存在する。その意味で他社から調達すべきデバイス、新会社で技術開発すべき部分を見極めていくことになる。新会社では高度運転支援、自動運転を見据え、20年代後半の量産化を意識して次世代LiDARの開発に取り組んでいく。
 普及車向けには、小型・低コストかつ高性能なLiDARが必要。十分な視野角を確保したうえで既存のミラー部分をミラーレスの電子スキャニングに置き換えるなどの技術も必要となる。

―― SoCで手がけることは。
 篠島 最先端の半導体製造プロセスが必要なので、パートナーの選定が重要になる。自動車メーカー・部品メーカーの立場から見た場合、将来のシステムを考えてディープラーニングに向けたこういうアルゴリズムが必要で、どの半導体メーカーのSoCであれば動くのか、といったことを先行開発の段階から半導体ベンダーと一緒に考えていきたい。そうすることで、SoC完成品がトヨタ自動車・デンソーの意図を反映した仕上がりになるよう貢献することになるだろう。SoC開発には巨額の投資と時間がかかる。SoC開発の初期段階で明確な方針を示し、SoCベンダーを選定していく必要がある。自動車の自動走行に関する明確な目線を提供していく。

―― 各主要技術開発領域を手がける拠点は。
 岩城 各拠点でクロスオーバーしながら開発を進めることになるが、ざっくりとした区分けとして、日進市、刈谷市、品川の拠点でセンサー、SoC、豊田市西広瀬町の拠点はパワー関連になる予定だ。

―― パワーデバイスではシリコンIGBTを大口径化する方向性もある。
 篠島 確かにそれも重要だが、量産ベースの課題であり、新会社の領域ではない。新会社ではシリコンベースのパワーデバイスは手がけず、前述のSiC、Ga系、酸化ガリウムなど、新材料をベースとした次世代パワーデバイスの開発を進めていく。

―― 次世代パワーデバイスで自動車向けに要する耐圧は。
 篠島 自動車の電動化を考えた際、バッテリー電圧は現状で300~400V帯が主流だが、充電の高速化で800Vまで上昇する可能性がある。パワーデバイスとしては2000Vまで考慮しておけば十分と考える。今後のコストと精度を見ながら、SiCなのかGaNもしくはその他の材料なのかを見極めたい。

―― 電子デバイス、電子部品メーカーへの要望は。
 篠島 パワーデバイス(チップ)だけ良くなっても、それを支える周辺技術もともにレベルアップしなければ意味がない。パッケージ、トランジスタ、コイル、インダクターなど周辺の受動部品も含めた進化が必要であり、高耐圧、高耐熱、低損失など、挑むべき課題は多数存在する。周辺部品関連メーカーとよいチームワーク、コラボレーションを実現したい。
 岩城 センサーではレンズなど光学部品の技術進化も問われる。また、精度の良い実装を実現する技術が必要となる。センサーの小型化・高精度化が進めば、信頼性も含めた精度向上のハードルは上がる。こうした課題をともに乗り越えていく必要がある。

―― 自動車業界は100年に一度の大変革期にあります。
 篠島 電動化へのニーズはますます加速するが、一挙にEVにはならないだろう。数量的にはまだまだHVの比率が高い。バッテリーも進化してきているが、液体燃料は軽くてエネルギー密度も高く、移動体のエネルギー源としては理想的だ。エンジンは簡単には真似できないので、自動車メーカーがイニシアティブを保てる分野である。

―― 最後に新会社設立に向けてメッセージを。
 篠島 半導体は自動車のコア部品であり、その技術研究開発を一任されたことには嬉しさもあり、重責でもある。新会社のみで成し得るものではなく、国内外のスタートアップ企業、半導体ベンダーとWin-Winのビジネス展開を作っていきたい。
 また、世界における日本の半導体の存在感が薄まっていると言われているが、特化する分野で強みを発揮し、世界と伍して勝負している半導体メーカーも存在する。パワー半導体もその1つだ。中国系の台頭、豊富な資金力を有するGAFAの存在など刻一刻と変化する環境下、技術でリードし続けていく所存だ。

(聞き手・高澤里美記者/中村剛記者)
(本紙2020年2月20日号1面 掲載)

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