「昨年8月にはパソコン向けSSDは品不足となり、フラッシュメモリーの大口価格は上昇へ転じた。2020年7~9月期には全世界のフラッシュメモリーの製造ラインはほぼフル稼働に入るだろう。やはりキーワードは5G高速のインパクトにあるのだ」
NEDIAの2020年新春セミナーは大活況であった!!
いまや稀代の爆裂アナリストとして知られる野村證券の和田木哲哉氏は、またもこう吠えまくっていた。2020年1月27日に学士会館において開催された、日本電子デバイス産業協会(NEDIA)の新春セミナーの講壇上のことである。筆者は、この超強気な発言を聞いていて「スーパーサイクル男」は死なないのね、と深くため息をついていた。ちなみに和田木氏にこの名前を命名したのは泉谷クンである。
和田木氏によれば、5G高速の事業機会はやはりビッグインパクトとなるようだ。通信速度は4Gの1Gbpsから10Gbpsに一気に高速化される。従来の100倍以上の多接続化が進み、1km²あたり100万台以上につながるのだ。そしてまた通信データ量は2010年比で驚くなかれ、1000倍以上になる。具体的な5Gインパクトは、やはり5G搭載スマホがまずは引っ張る。おそらくは、世界のスマホの20%以上は2000年中には5Gに移行すると見られている。そしてまた、基地局に関連する投資、そして何よりもデータセンターが半導体を引っ張る展開となってくるのだ。
「5Gに加えて、中国の監視カメラのストレージがバカにならない。昨年の6月にはHDDの在庫がほとんどなくなってしまった。世界1位と2位の中国の監視カメラメーカーがHDDを買い占めてしまった。中国の監視カメラはここ数年でこれまでの3~4倍となる6億台になることは確実であり、その先には20億台が予測されるほどの状況となっている」(和田木氏)
中国における監視カメラはインテリジェント型であり、群衆の中の1人を見つければすべてデータベース検索がかかり、名前、住所、勤務先など個人情報がすべて掌握されることになる。言うところの非民主主義の国では中国を見習って、徹底的に監視カメラで群衆を監視するという風潮に歯止めがかからないだろう。
こうした傾向に対し、笑いが止まらないのがソニーであろう。監視カメラに使われる画像デバイスのCMOSイメージセンサーについては、ソニーは圧倒的なシェアを持っている。そしてまた、監視カメラのストレージ容量はすさまじい勢いで上がっており、2020年は1ZB強くらいであるが、これがあっという間に3ZBまで伸びてくれば、世界のハードディスク生産量を大きく上回ってしまう。これすなわち、フラッシュメモリーの出番なのである。
「ここに来て、TSMCの装置発注は大幅増となっている。2019年10月の受注は前年同月比31%増ともなっており、まさにサプライズの活況にある。この最大の理由は、EUVの5nmプロセスが大爆発のヒットとなっており、集積度は実に18%も改善したという。そしてまた、チップあたりのコストも30~40%も下がるという優れものだ。EUVで世界に最先行したTSMCは大口顧客を獲得し、その勢いはとどまるところを知らない」(和田木氏)
TSMCは2019年の設備投資額として約150億ドルを投入した。2020年については150億~160億ドルを計画している。もし仮に200億ドルを超えるようなことになれば、世界全体の半導体設備投資の3分の1くらいはTSMC1社が担ってしまう。驚くべきことに、EUV活用の3nmの工場も2020年には着工するという。もちろん、7nmプロセスもフル稼働状態になる。
そしてまた和田木氏は、ゲーム向けパソコンが大きく半導体を引っ張ると鋭く分析している。何しろ、インターナショナルDotaチャンピオンシップにおいては、37億円の賞金が用意されたのだ。このゲーム大会の優勝チームには16億円が授与され、1人あたりで言えば3億円も獲得することになる。たかがゲームで3億円を獲得できるのであれば、若者たちはみな、ひたすらハイエンドパソコンを使ってゲームに狂ってしまうだろう。日本国内でも優勝賞金1億円という大会が出てきたわけであり、あなおそろしや、とはこのことである。
こうした大掛かりなゲーム大会については、観戦する人も多い。チケット代1万円払ってでも見る、という人が多数いることには驚かされるばかりだ。「神業が見たい」というゲームファンはこれからも拡大するばかりなのである。
こうした大会に勝ち抜くために必要なデバイスは、ハイエンド専用のGPUである。SSDは標準で16ギガが必要になる。高いスペックの人が必ずゲームに勝つと言われる。米エヌビディアによれば、今後のGPUの50%はすべてゲーム用に使われる、というのだ。1個13万円のGPUをビシバシと買っている若者たちがどんどん増えてくるという。もう泉谷クンには付いていけない世界なのだ。
「2020年の世界半導体については、全く心配する必要がない。パソコン向けのCPUは不足するだろうし、GPUはゲームなどにとんでもない需要が生まれてくる。そしてまた、データセンターの着工が次々と重なるために、DRAMもフラッシュメモリーも足りなくなる。CMOSイメージセンサーも爆発的に伸びる。今後の世界の大手の設備投資計画をきっちりと見なければならない。とりわけTSMCには注意を払う必要がある」(和田木氏)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。