電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第357回

東芝デバイス&ストレージ(株) 代表取締役社長 福地浩志氏


システムLSI、19年度黒字へ
大分でもディスクリート生産、23年度の営業利益率10%に

2020/1/17

東芝デバイス&ストレージ(株) 代表取締役社長 福地浩志氏
 東芝で、半導体やHDD製品などを扱うデバイス&ストレージソリューション事業の収益回復が顕著だ。足元で市況の不透明感が続くなか、事業の選択と集中を加速させ、収益力の改善に邁進する。採算性が悪化していたロジックのうち、車載を除いた先端ASICの新規開発から撤退を決めた一方、車載用LSIのビスコンティをはじめ、パワーデバイスやニアラインHDDなど戦略製品の市場投入を一気に進める。2023年度には売上高1.1兆円、営業利益1100億円の高収益事業を目指す。同事業を指揮する東芝デバイス&ストレージ(株)社長の福地浩志氏に今後の事業展開を伺った。

―― 19年を振り返ると。
 福地 総じて厳しい年となった。米中貿易摩擦の影響で中国景気が低迷したことに加え、GAFAなどの大手プラットフォーマーらによるデータセンター(DC)投資の縮小に伴い、産業用のディスクリートや大容量HDDなどの需要が低迷した。19年度上期(4~9月)のデバイス&ストレージソリューション事業の売上高は前年同期比15%減の4020億円、営業利益は同5%増の117億円の減収増益となった。

―― 半導体は増益となりましたが。
 福地 ニューフレアテクノロジーを含めた「半導体」の上期売上高は前年同期比9%減の1597億円、営業利益は同43%増の80億円を確保した。半導体市況が全般的に低迷し、主力のディスクリートやシステムLSIの需要が弱かった。増益となったのは、システムLSIの構造改革を推し進めたからだ。早期退職や配置転換など人員の適正化をはじめ、開発や受注案件の厳選を進め、不採算事業の絞り込みをかけている。19年度中にシステムLSI事業の黒字化を目指す。

―― 先端ASICからの撤退も決めましたね。
 福地 中長期的には安定した収益化が難しく、通信やカスタムICなど、車載を除いた先端ASICの新規開発からは撤退を決めた。事業規模は年間売上で約150億円だ。
 一方、アナログやマイコンといった当社が強みを持つ領域に、技術者など人材を手厚く配分する。

―― 車載用LSIは強化します。
 福地 引き続き、車載向けは注力する。当社は駆動系や安全系を中心に幅広い製品をラインアップしている。特に車載の画像認識で定評のあるビスコンティシリーズでは、最新の製品としてAI機能を搭載したビスコンティ5をサンプル出荷中だ。大規模なSoCであるため、使いこなしには顧客との二人三脚もポイントになる。自動運転を視野に入れた次世代の画像認識SoCの検討も進めている。一方で、走行時の周辺監視や監視カメラ用途などに応用することを前提に、最適なSoCも検討中だ。より低コストで使いやすい製品として早期にサンプル投入したい。

―― 足元の事業環境は。
 福地 いまだにはっきりとした復活の手ごたえがない。19年春先よりは明るくなってきているが、DCや車載・産業機器向けなどが依然弱い。景気は跛行状態といったところだ。半導体テスター向けのフォトカプラーも弱く、車載用途や産業機器向けのパワーデバイスや小信号デバイスも全般的に軟調が続く。

―― HDD事業は。
 福地 19年度上期の「HDD他」の売上高は前年同期比18%減の2423億円、営業利益は同33%減の37億円にとどまった。最大の減収要因は、従来手がけていたキオクシア製品転売の商流変更によるもので、HDD事業単体では増収だった。さらに、システムLSI関連の構造改革費用もここに含まれているため、減益となった。

―― ニアラインHDDに積極的です。
 福地 引き続き、拡大するエンタープライズ市場で成長を目指す。大規模DC向けに新製品を投入する。大容量の主力製品は12T~14TB品だが、徐々に16TBにシフトするだろう。20年には18TB品の投入も計画する。エネルギーアシスト記録などの新技術も適用し、業界の大容量化競争を勝ち抜く。現在、フィリピンで増産投資を進めており、21年度にかけてヘリウム充填型を中心に生産能力を19年度比で倍増する。最近は顧客の短納期ニーズが強く、当社もクイックレスポンスを心がけている。

―― 19年度通期の業績見通しについて。
 福地 通期売上高は前年度比15%減の7900億円、営業利益は同3倍増の360億円を計画しているが、引き続き市況は弱く、厳しい状況が続いている。
 このうち「半導体」は同10%減収の3200億円、営業利益は220億円(前年度は2億円の黒字)へと大幅改善を期待する。不採算製品の縮小や構造改革の効果が出てくる。
 「HDD他」は、同19%減収の4700億円、営業利益は前年度比17億円増の140億円の減収増益だが、注力のニアラインHDDでは、大手顧客向けの販売が本格化することから大幅な増収を見込む。

―― 完全子会社化を目指していたニューフレアテクノロジー(NFT)にHOYAがTOBの開始予定を発表しました。
 福地 当社はTOB期限を20年1月16日(40営業日)まで延長して、当初の計画どおりTOBの成立を目指してきた。あくまでNFTを完全子会社化することで当社やNFTの企業価値を上げることができると思っている。次世代のマルチビームマスク描画装置を早期に開発しないとライバル企業に後れを取ってしまう。コア技術のマルチビーム制御素子(センサー)の共同開発を早く進めないといけない。また、NFTはSiC向けのエピタキシャル成長装置も手がけている。当社も姫路半導体工場でSiCを生産しており、こうした顧客ニーズを迅速に反映することで、より生産性の高い次世代品の開発につなげられる。

―― 19年度投資の進捗状況を教えて下さい。
 福地 350億円の投資を計画している。ディスクリート製品では加賀東芝エレクトロニクスで、8インチの生産能力の増強を進めている。20年度までに17年度比で1.5倍に引き上げる。近くフルキャパ状態となるので、その先の需要を見越し、ジャパンセミコンダクター・大分事業所の8インチラインでも生産を開始する。また、タイの組立工場でもオプトや小信号デバイスの生産能力の拡張を行った。姫路でも後工程の増強やSiC6インチの生産ラインを構築している。
 19年度から東芝マテリアルも当社グループに取り込んだ。同社はハイブリッド車のパワーコントロールユニット用途などの絶縁回路基板として信頼性の高いSiN基板事業を展開する。そのSiN基板の能力も増強中で、現在ラインの整備を進めている。20年度いっぱいまでかかる見通しだ。

―― 20年度以降の事業展望を教えて下さい。
300mmライン構築が有力視される加賀東芝エレクトロニクス
300mmライン構築が有力視される
加賀東芝エレクトロニクス
 福地 今年は半導体市況の回復も期待される。自動車も将来的には自動運転やエコカーの普及により、電装化比率が向上し、半導体などの使用量も増加する。ジャパンセミコンダクターのファンドリー事業も20年度以降から拡大が期待できそうだ。現在大きな商談を進めている。マイコンのラインアップも拡充を図っている。システムLSIの構造改革も一段落したので、景気回復により半導体需要が拡大すれば、収益力の改善が大いに期待できる。
 IGBTなどのパワーデバイスは300mmプロセスの検討を進めており、需要次第では加賀東芝エレクトロニクス敷地内を中心に量産ラインの構築も視野に入れている。
 23年度には売上高1.1兆円、営業利益1100億円を見込む。

(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2020年1月16日号1面 掲載)

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