商業施設新聞
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No.735

アパレルの行く末


岡田 光

2019/12/10

 これまで東京に本社を置くアパレル企業に直接取材したことがないので、断定することはできないが、筆者は日々、アパレル業界の将来に危機感を抱いている。それは、アパレル企業の出店が鈍化し、業績が悪化しているからではない。地方の百貨店が軒並み閉店して、アパレル企業の出店先が少なくなっているからでもない。ECの台頭でリアル店舗を脅かしている側面もあるが、筆者が恐れているのは、ファッションの同質化だ。

「京都ゆにくろ」の店内
「京都ゆにくろ」の店内
 “同質化”は、商業施設の取材でよく聞く言葉である。「ニトリ」「無印良品」「ユニクロ」など、安定した集客と収益が見込めるテナントを誘致した結果、切っても切っても同じ顔しか現れない、金太郎飴のような現象が起きてしまう。そのテナントの顔ぶれを見て、商業施設が同質化しているとよく評される。しかし、これは多くのテナントが出店する商業施設に当てはまる話であり、アパレルという一業界に当てはまる話ではないと、つい最近まで思っていた。しかし、ある日の取材で某チェーンの店舗開発担当者はこう言った。「ファッションのユニクロ化を危惧している」と。
 ユニクロは国内で817店(19年8月時点)を、海外でも1379店を展開するアパレル業界の代表的な店舗だ。直近も、京都市の河原町商店街にある「ミーナ京都」内の店舗を改装し、「京都ゆにくろ」をオープン。従来の5~6階の2層から、地下1階~地上3階の4層に広げ、売り場面積も1650m²から2970m²へと増やしている。同店がオープンする1週間前には、JR大阪駅前に開業した「LINKS UMEDA」内にも出店するなど、勢いは止まらない状況だ。

 では、ファッションのユニクロ化とはどういう現象を表すのか。例えば、ベビー・子供服。この分野では「アカチャンホンポ」や「西松屋」といったプレイヤーを思い浮かべるが、ユニクロにもベビー・子供服は置いている。京都ゆにくろでは3階に売り場を設置。ビジネスウェアも同様に、「洋服の青山」や「紳士服はるやま」などのプレイヤーが頭に浮かぶが、京都ゆにくろにもビジネスウェアは置いている……。
 言い換えれば、ユニクロで下着から上着、ズボン、スカートといったカジュアル服だけでなく、ベビー・子供服からビジネスウェアまですべてが揃ってしまうことになる。「1つの店ですべてが揃うのは良いことだ」という意見もあるだろう。確かに便利ではあるが、1店だけではデザインやセンスなどの感性は磨かれない。それが消費者だけならまだしも、将来のアパレル業界を担うデザイナーや販売員までその考えが浸透するのは、とても危険なことだ。加えて、ファッションのユニクロ化は、リユースなどの二次流通にも大打撃を与える。本来ならば、様々なブランドのリユース品が並ぶ店内に、ユニクロの商品だけが並ぶようになれば、リユースを利用する顧客もいなくなってしまう。

出店を増やしている「ルディックパーク」
出店を増やしている「ルディックパーク
 だからと言って、ユニクロの勢いを止められるわけではない。これからも良い立地を求めて、大型店を出店するだろう。そこで大切になってくるのが、デベロッパーによるアパレル企業の育成である。昔のように、売り上げが計算できるアパレル店は少なくなっているが、退店よりも出店が上回るアパレル企業がいないわけではない。
 例えば、前述のユニクロも出店した「LINKS UMEDA」。その3階には「ルディックパーク」というアパレル店が出店している。最近、商業施設やSCでよく見かける店であるが、運営しているのは、ユニー(株)のグループ会社であったパレモ・ホールディングス(株)。元親会社のユニーは(株)パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに呑み込まれたが、パレモ・ホールディングスはフェニックス・キャピタルグループに異動した。現在は「ルディックパーク」と300円ショップ「イルーシー300」を出店の柱に掲げ、今期は出店が退店を上回る見通しだ。こうしたアパレル企業を誘致し、育てることで、ファッションのユニクロ化を食い止めることができるだろう。
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