(株)丸井グループは2014年度から、定期借家契約により家賃を得るSC型に舵を切り、アパレル中心の売り場構成を、飲食やサービス、雑貨を中心としたMDに変更し、収益の安定化を進めてきた。その狙いや今後の展開を、(株)丸井 店舗プロデュース部長の山口博行氏に聞いた。
―― 定借化について。
山口 定借化に踏み出した当時、モノからコトへの消費変化が顕著になってきたことや、EC化が急速に進展しており、百貨店型ビジネスモデルが転換期を迎えていた。売り上げを前提とした店づくりが立ち行かなくなり、また家計支出では当社の主力アイテムだった被服の比率が下がっていたが、それに対応する店ができていなかった。
こうした中、14年度に町田マルイを刷新したのが第1号で、18年度までに全25店のうち6.6万坪を定借化した。当初計画では、バックヤードやPB売り場は含まれていなかったため、あと5000坪程度は定借化できる余地がある。
―― 床をどう作る。
山口 体験やサービスを提供する、“モノを売らない”テナントや、飲食テナントが増え、アパレル比率が下がっている。18年度末でアパレルと飲食・サービス、雑貨が3、3、4割の構成だが、5年前は飲食・サービスは約2割だった。
従来レディースの雑貨、靴、アクセサリー、化粧品売り場だった館の導入階に食物販を導入した。旬の楽しいものをどれだけ入れられるか。すべて常設契約ではなく、イベントスペースも活用している。短期契約にすることで、お客様のニーズに都度対応できるし、店も賑わいが生まれる。テナント側はリスクが低いし、我々もバリエーションが広がる。ヒットの見込みがあれば常設区画に移すこともできる。
―― 元々飲食は充実していた印象です。
山口 お客様と店づくりを進める中で、10年ほど前からカフェやレストランを積極的に導入してきた。しかし、こうした業態にも課題はある。レストランは雇用やフードロスの問題を抱える。レストランに行かなくても、スーパーの総菜は充実しているし、フードデリバリーもある。レストランは取引先の投資も大きいため、契約期間が7~10年と長くなる。お客様ニーズの変化が加速しており、タイムリーに需要に合わせたテナントを導入するのは難しい。
―― 最近の改装は。
山口 北千住マルイのレストランフロア全面リニューアルを皮切りに順次改装を実施。1テナントの面積を適正化してテナント数を増やし、店舗環境も店外からの視認性をとることで、さらに多くのお客様にご利用いただくようになった。その後、上野マルイのレストランフロアにフードコートゾーンを展開した。今年はマルイファミリー溝口の導入階にも飲食テナントを導入する。
―― ファッションは。
山口 「デジタル・ネイティブ・ストア」を打ち出した。スマホやPCが生まれた時から当たり前のようにある世代がこれからボリュームになってくる。「店舗の役割として、この世代に買うこと以外の価値を提供できれば来店してもらえる」という仮説を立てた。ネットの情報だけではわからない感覚的なもの、店舗はそういうものを試したり体験したり、コミュニティを作る場所になるのではないか。すでに、デジタルの延長線上にリアルがあり、リアルがデジタルを補完する。サイズが瞬時にわかるなどデジタルの力を借りたお店が増えてくる。
―― カスタムオーダースーツの「ファブリックトウキョウ」(FT)と、資本業務提携しました。
山口 一般的なスーツ売り場は、店舗の在庫を販売するため多くの商品が並んでいるが、FTでは商品在庫を置いていない。FTがリアル店舗で行うのは、採寸とカウンセリングだ。カウンセリングしたデータはクラウド上に保存される。買いに行くのが億劫な男性も、オンラインで購入できる。FTのカウンセリングは予約して来店されるお客様が多い。予約することで、色々聞けるので価値が高い。
また、当社はカード事業があるのも大きい。カードは“モノを売らないビジネス”への強力なツールになる。店舗はショールームでも、購入は当社のカードで利用していただければ、グループの利益につながる。売らない店での重要指標は、どれだけ長くおつきあいしていただけるか。生涯利益が重要になってくる。
―― 店舗の役割が変わってきます。
山口 新宿マルイ本館に出店しているアスレティックウェア販売のルルレモンは売ること以外に力を入れている。店舗で無料のヨガイベントをやっている。そういう中でコミュニティが生まれ、ファンになってもらい、いずれ商品を買ってもらう。最初から売ろうというのでなく、結果として売れる。
―― 今後の抱負を。
山口 本当の意味でお客様に役に立つ店。役割を変えることを愚直にやり続けながら、柔軟に変えていく。丸井の強みは方向転換を怖がらずにやってきたこと。デジタルネイティブという仮説を立てたが、5年、10年後は違うキーワードが出てくるだろうし、もっと予想できない世の中になっている可能性がある。リアルは便利さやお得感ではネットに劣るが、楽しさはリアルが一番得意なチャネル。お得で便利で楽しい三拍子が揃う館を目指したい。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2317号(2019年10月22日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.315