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第349回

Charge CCCV(C4V) CEO シャイレシュ・ウプレティ氏


全固体電池工場、年内稼働へ
世界3カ所に生産工場を準備

2019/11/15

Charge CCCV(C4V) CEO シャイレシュ・ウプレティ氏
 米ニューヨーク州北西部のビンガムトンに位置するニューヨーク州立大学ビンガムトン校。その構内に本社を構えるのが蓄電池ベンチャーのCharge CCCV(C4V)だ。既存のリチウムイオン電池(LiB)を代替する高性能・高安全性の全固体電池を開発している。本社近くの旧IBM工場跡地エンディコットに年産1.2GWhの生産工場を建設中で、年内にも生産を開始する予定だ。加えて、最先端の生産装置や検査装置を導入したラボを本社内に保有し、その設備投資額は約300億円に達する。用途としては、従来のEV(電気自動車)やESS(定置用電源)に加え、「空飛ぶクルマ」も想定している。CEOのシャイレシュ・ウプレティ(Shailesh Upreti)氏に話を聞いた。

―― ご略歴と貴社の背景から。
 ウプレティ インド北部のウッタラーカンド州で生まれ育った。インド工科大学で博士号を取得後に渡米し、LiBの研究者として名高く、かつ今回LiBでノーベル化学賞を受賞したビンガムトン大学のスタンリー・ウィッティングハム教授の下で5年間にわたりご指導を仰いだ。
 2011年にはラボレベルで全固体電池の基本技術を開発し、事業化の検討を開始した。12年に最初の特許を申請し、13年に蓄電池としての完全動作を確認した。そして14年に現COO兼マーケティング責任者のロバート・ドブス氏と共同でC4Vを設立した。
 設立にあたってはニューヨーク州のベンチャー支援プログラム「StartUP NY」を活用し、同大学構内に本社を設立した。連邦政府や同州政府からサポートを受けるとともに補助金もいただいている。

―― 本社ラボについて。
 ウプレティ 電極、セパレーター、電解質といった材料の加工をはじめ、セル・モジュール組立、パック化やBMS(バッテリーマネジメントシステム)組み込みなど、エンド・ツー・エンドで蓄電池を製造できる。加えて、最先端の検査装置や電子顕微鏡、引張試験機、3Dプリンター、表面実装設備など、蓄電池の生産、検査、評価に関わるすべての設備がインストールされている。設備投資額は合計約300億円規模で、連邦・同州政府やファンドから調達した。

―― 全固体電池技術について。
全固体電池セル(角形と円筒形)
全固体電池セル(角形と円筒形)
 ウプレティ 第1世代と第2世代で異なる材料を採用している。第1世代はセパレーターや電解液を使ったLiBだ。ただし、電極材料はLiBと大きく異なる。LiBは正極材としてニッケル、コバルト、マンガン、それにこれらを組み合わせた3元系を使っているのに対し、高電圧のマンガン化合物を採用している。我々は「BMLMP(Bio Metalized Lithium Metal Phosphate)」と呼んでいる。一方、負極材は従来のグラファイトの代わりに高容量のシリコン/グラファイト化合物を採用している。
 性能としては重量エネルギー密度200Wh/kg、体積エネルギー密度500Wh/L、サイクル回数2000~3000回、出力密度5Cを実現した。いずれも一般的なLiBより高い。加えて、LiB以上の高い安全性を実現するほか、ニッケルやコバルトを採用していないため低コスト化にも有利だ。電力会社によるESSの安全性検証プログラムにも参画し、発火事故がない、高い安全性が証明されている。一般的なLiBの発火事故では、発火以外にも酸化ニッケルの蒸気が人体に悪影響を与えることが知られている。
 一方、第2世代では、先述の電解液を固体電解質に置き換え、完全な全固体電池とする。固体電解質はカリフォルニア州の企業を買収して技術を取得した。固体電解質はポリマーとセラミックのハイブリッドだ。一般的にはそれぞれの材料が開発されているが、長所と短所がある。これらの長所を組み合わせることが可能だ。性能面では300Wh/kg、650Wh/Lを達成した。また、LiBでは冷却機構を搭載しているが、我々の全固体電池は摂氏100℃まで不要だ。これによりモジュール大容量化や軽量化に寄与する。
 また、500Wh/kg、900Wh/Lに対応する第3世代も開発しており、今後2年以内に実用化させたい。

―― 生産プロセスと生産工場について。
本社ラボの様子
本社ラボの様子
 ウプレティ 既存のリチウムイオン電池(LiB)の塗工法とほぼ変わらない。第2世代ではフィルム状の固体電解質で、電極、固体電解質などをサンドイッチ構造で積層化する。既存プロセスの活用は設立時から考えていた。新たなプロセスを導入すれば、コストが高くなるためだ。
 一方、生産工場については、米ニューヨーク州、オーストラリア・タウンズビル、独リストロムの合計3カ所でプロジェクトを進めている。ニューヨークとタウンズビルでは複数の企業とコンソーシアム「Imperium3」を組み、サプライチェーンを構築している。具体的には、LiB負極材といった材料を取り扱うマグニス・リソーセズ、それにESS、エネルギー・マネジメント・システムなどを展開するボストン・エナジー・アンド・テクノロジーなどだ。年産能力はそれぞれ15GWhで、合計30GWhとなる。
 ニューヨーク工場は本社近くのエンディコットに建設中だ。旧IBMの最初の工場敷地を当社が買収したもので、1フロア面積20万m²と広大だ。当初は年1.2GWhに対応する。生産設備はほぼインストール済みで、年内にも稼働を開始する計画だ。設備投資額は100億円規模だ。
 一方、オーストラリア工場は21年から量産を開始する計画。クイーンズランド州政府による補助金交付などサポートを受けている。このほか、リストロム工場は最初の2つのプロジェクトが軌道に乗ってから進める方針で、Imperium3とは異なるサプライチェーンを考えている。

―― 用途について。
 ウプレティ 第一にEVやESSだ。スマホやノートPCといった民生機器も考えられるが、現在は特に意識していない。一方、有望な用途として期待しているのが空飛ぶクルマだ。我々は「Urban Transportation」(都市交通)」と呼んでいる。現在、航空会社やベンチャーなど複数の企業と共同開発を進めており、5年以内にも実用化にこぎつけたい。実現できれば、我々の生活を一変させる可能性が高い。例えば、マンハッタンからビンガムトンまで自動車で3時間以上かかるが、Urban Transportationでは1時間かからない。将来的には自動運転も考えられる。

(聞き手・東哲也記者)
(本紙2019年11月14日号1面 掲載)

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