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第346回

日本アトマイズ加工(株) 取締役 井上英二氏


MLCCとコイル用の金属粉を提供
つくば工場増強の検討を開始

2019/10/25

日本アトマイズ加工(株) 取締役 井上英二氏
 日本精鉱(株)100%子会社の日本アトマイズ加工(株)(千葉県野田市西三ケ尾87-16、Tel.04-7125-6677)は、積層セラミックコンデンサー(MLCC)の外部電極材である銅微粉、パワーインダクターのコイル材となる鉄系合金粉を提供する。MLCCやパワーインダクターの需要増を背景に、主力生産拠点のつくば工場(茨城県牛久市)で量産能力増強の検討に着手。2021年以降の竣工で、予算は約20億円、建築面積は約4900m²。生産能力を現状から50%アップさせる新工場棟の建設を想定している。次代の通信機器や自動車、さらにはIoT、AI(人工知能)、第5世代移動通信システム(5G)などの到来で、電子機器への半導体搭載員数は急増。これに呼応し、デカップリング(LSIへの駆動電力安定供給とノイズ除去)を担うMLCC、電源周りを死守するパワーインダクターの搭載員数も右肩上がりの軌跡を描く。次代をにらむ同社の電子部品材料戦略を取締役の井上英二氏に伺った。

―― 貴社の概要からお願いします。
 井上 当社は前回の東京オリンピックが開催された1964年に創業した。主業務は、社名が示唆するとおり、水アトマイズ法による金属粉末の製造・販売を担う専業メーカーだ。創業以来、モーターの軸受材やドアミラー、ワイパーなどの自動車部品材である粉末冶金向け金属粉が事業の柱である。2000年に日本精鉱の子会社となり、これを契機に電子部品用金属粉のビジネスにも参入した。

―― 売上高の推移について。
 井上 10年度で46億円規模だったが、その後は順調に成長を重ね、15年度に56億円、17年度には68億円に達した。18年度は10~12月期から下降局面を迎えたが、それでも66億円の売り上げを成し遂げた。

―― 水アトマイズ法について。
 井上 高周波の電気熔解炉で、まずは金属を熔融。この金属熔融液をタンディッシュと呼ぶ小さなるつぼに移す。タンディッシュの先端にはミリ径の穴が開いており、穴から流れ出た金属熔融液に80~100MPaの高圧水を噴射する。金属熔融液への高圧水の物理的力と急速冷却によって、金属粉を製造する。噴射する高圧水はリサイクルされていて、蒸発した水量を補充する。

―― この手法による金属粉の特徴は。
 井上 粉末の形状を、きれいな球形の粒粉だけでなく、異形状にコントロールすることができる。

―― 粒径から見た製品ラインアップは。
 井上 かつては最小5μm径だった。現在はより微細なミクロンオーダーで、1.5~14μmないしは15μm径までラインアップを用意している。

―― 水アトマイズ法で金属粉を製造したあとは。
 井上 製造された金属粉と水はタンクに溜まり、脱水工程で金属粉と水に分離し、水はリサイクルされ、金属粉は乾燥工程に送られる。乾燥終了後、今度はお客様からの要求粒径に従い、乾燥金属粉末を分級する。電子部品用金属粉はミクロンオーダーのため、空気分級を実施する。空気分級とは遠心力と抗力(吸引する力)を応用した分級法で、ミクロン径の軽い粉末は微粉として残るが、粒径の大きい粉末は自重に遠心力が作用し、より遠くにはじき出される。

―― 検査から出荷体制について。
 井上 お客様には高品質・高信頼性のある金属粉を提供するため、検査項目は粒度分布や化学成分、酸素、比表面積(単位質量あたりの表面積)、タップ密度、SEM観察など、総計6項目などについて検査する。出荷形態は250kgのドラム缶、20kgのスチール缶などで提供している。サンプル提供も請け負っており、アルミ袋での少量提供も可能だ。

―― 生産拠点はどのように配備していますか。
主力生産拠点のつくば工場では能力増強の検討が始まった
主力生産拠点のつくば工場では
能力増強の検討が始まった
 井上 電子部品用金属粉の量産工場は、日本精鉱の子会社になったあと、04年に本社工場敷地内に専門棟を設けた。そして10年に初期投資22億円でつくば工場の建設に着手した。投資の内訳は、土地代が6億円、建屋が8億円、生産設備が8億円だ。12年に竣工した。さらに3年後の15年には別途3億円を投じ、倉庫も建設した。総敷地面積は本社工場9450m²の約4倍となる3万6300m²、工場棟の延べ床面積は5886m²。ラインは銅微粉、貴金属微粉、合金微粉の製造3ラインを用意している。各ラインは完全分離されており、相互間の金属不純物の混入をシャットアウトし、高純度金属微粉の提供が可能となっている。
 今回、MLCCおよびパワーインダクターの搭載員数増加を背景に、つくば工場の生産能力増強が必要と考える。

―― パワーインダクター用軟磁性材である鉄系合金粉の持つ優位性とは。
 井上 コイル材の主流は、コスト面も考慮してフェライト材が主流だが、鉄系合金粉はフェライト材と比較して、チップサイズの小型化と大電流化を推進することができる。同材料はニッチな市場で非常に重要視されており、当社の業績に大きく貢献している。

(聞き手・松下晋司記者)
(本紙2019年10月24日号12面 掲載)

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