電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第344回

(株)ダイセル 執行役員 有機合成カンパニー カンパニー長 林仁志氏


次世代半導体材料各種を提案中
銀ナノインクなどPEにも展開

2019/10/11

(株)ダイセル 執行役員 有機合成カンパニー カンパニー長 林仁志氏
 2019年で創立100周年を迎えた老舗の化学メーカー、(株)ダイセル(東京都港区港南2-18-1、Tel.03-6711-8111)が電子材料分野で攻勢に出る。半導体の微細化が加速する一方、SiCなどパワーエレクトロニクスが本格台頭するのに伴い、半導体電子材料分野にも革新が求められている。モノマー/ポリマー事業で培った材料の川上分野で自社の優位性を活かし、原料レベルから決定的な性能の差別化を図る。そして最終アプリケーションを見据えた製品開発も視野に入れる。有機合成カンパニー長の林仁志氏に、エレクトロニクス向け主力製品の足元の市況や今後の事業展開を聞いた。

―― 現在手がける主な電子材料部材はなんですか。
 林 ディスプレーならびに半導体・電子部品などのデバイス向けに使用される溶剤類(洗浄・溶媒・添加)をはじめ、機能性ポリマー、LED用封止材など多岐にわたっている。特に半導体用ArFや液晶向けレジストポリマーでは大きなシェアを有している。当社は材料の川上領域で変性技術に強みを持っている。

―― 足元の市況は。
 林 先端半導体のパーティクルを除去する洗浄工程で必要な、高純度溶剤の需要が堅調に推移している。また、耐熱性に優れる脂環式エポキシ樹脂ベースのLED封止材やコーティング材料のほか、車載用ディスプレー用途でぎらつきを大幅に低減できるAGフィルムへの引き合いが増えている。台湾にはウエハーレベルレンズを活用した光学製品の開発・販売拠点も設置した。

―― 上期業績見通しについて。
 林 電子材料分野に限ると19年度上期は前年同期比数%のマイナス成長とみている。背景には米中貿易摩擦や日韓の先端材料における経済摩擦が読み切れないことがある。また、当社は液晶光学フィルム向けの酢酸セルロース(TAC)も取り扱っているので、今後の中国における液晶などの投資動向を注視している。先の米中貿易摩擦をきっかけに中国の補助金政策にも影響が出てきており、投資抑制が懸念される。

―― SiC用電極接合材にも展開していますね。
 林 次世代パワー半導体の代表格であるSiCチップの接合材料の開発も大阪大学と共同で進めている。マイクロレベルの銀粒子をベースとした材料である。従来必要とされていた接着樹脂を含まないため、低抵抗、高熱伝導の接合が実現できる。さらに無加圧で窒素雰囲気下での低温焼成が可能となり、高温はんだ材料の代替を目指す。

―― 次世代通信規格の5G向けで材料の低伝送損失化も求められています。
 林 いわゆるサブ6と呼ばれるような6GHz帯域以下では既存の材料をベースに技術改良を進めていくことで対応できるかもしれないが、77/79GHzや、それ以上となると新たな材料開発が不可欠になる。究極の低誘電率化など低伝送損失化のためには有機分子内にポーラス構造を作り上げることも必要になる。当社は、もともとある高機能溶剤やそれらのすり合わせ技術を得意としているので、何らかの提案を行っていきたい。

―― プリンタブルエレクトロニクス(PE)部材の開発も加速していますが。
 林 インクジェット(IJ)で高精度に配線形成が可能な銀ナノ粒子インク「Picosil」を開発しており、100℃台の低温焼結プロセスに対応する。PETやPCといったプラスチック基材へ印刷で電子回路を形成することが可能だ。また、東京大学発のベンチャー企業であるパイクリスタル社に出資して有機半導体の事業拡大を目指している。

―― ダイセル式生産革新が早くから業界内で注目されています。
 林 当社は、団塊世代の大量退職による早急な世代交代・技能伝承の問題に直面したことから、どこよりも早く、次世代の化学工場をイメージして、「人・組織の革新」「生産システムの革新」「情報システムの革新」の3つの革新に取り組んだ。ベテランオペレーターに暗黙知として蓄積している設備の運転ノウハウやスキルを標準化・システム化することで、誰もがベテランオペレーターの技術を活用できる仕組みを構築し、品質の確保、コストダウン、省エネを実現している。この全体最適化した生産革新の手法は、ビジネスモデルを特許として資産化も行っている。

(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2019年10月10日号5面 掲載)

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