商業施設新聞
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No.725

稼働率60%の衝撃


岡田 光

2019/10/1

 京都のホテル運営に黄信号が灯り始めた。ホテル各社は、チェーン展開や新ブランドの擁立に取り組み、規模の拡大を図ってきたが、2018年度と異なり、19年度はホテル間の競争が激化している。ここ1年で新規ホテルが相次いで開業したほか、カプセルホテルや簡易宿所も増加したことで、客室料金は軒並み下落。最近はADRを一定水準に保つために、開業時に稼働率を追求しないホテルまで出てきた。京都という世界有数の観光地で、ホテルの需要と供給に異変が起きている。

 取材で最も衝撃を受けたのは、今夏に開業した某ホテルチェーンの担当者が放ったコメントだ。「このホテルは、年間の稼働率として60%を見込んでいる」と。筆者の知る限り、京都市内に開業したホテルで、“稼働率60%”を提示したホテルチェーンは記憶にない。その根拠を担当者に尋ねると、「京都はここ1~2年で新規ホテルや簡易宿所が相次いで開業しており、ホテル間の価格競争が起き始めている。この価格競争に巻き込まれないために、稼働率を抑える目標を立てた」と語った。

9月2日に開業した「オリエンタルホテル京都 ギャラリー」
9月2日に開業した
「オリエンタルホテル京都 ギャラリー」
 確かに、ここ1~2年で京都市内の宿泊施設(ホテルや簡易宿所など)は大幅に増えた。特に増えたのが、繁華街の河原町・烏丸エリアと京都駅周辺だ。これまで河原町は店舗や商業施設、烏丸は銀行などのオフィスを中心にまちづくりが進んだが、烏丸に三菱地所系や相鉄系のホテルが進出したことで、ホテル開発が活発化した。オリックス、ユニゾ、リソルも相次いでホテルを開業し、今も2つのホテルが開発中だ。もっと増えているのが京都駅周辺。京阪、大和ハウス系、H.I.S、JR西などがホテルをオープンしており、ホテルのバリエーションもシティホテルやビジネスホテルなど豊富で、訪問客は選ぶのが大変そうだ。

京都初進出の「三交イン京都八条口」
京都初進出の
「三交イン京都八条口」
 ただ、新ホテルが増えたからと言って、“60%”という数字の裏付けにはならない。この数字が示された理由としては、適正な客室料金を確保したいというホテル事業者の思惑が見え隠れする。京都でホテルを開業した場合、客室料金を尋ねると、答えは「1室が1万5000円程度です」と返ってくる。しかし、この価格は全国各地から京都の紅葉を見物に訪れる、観光ピークの“秋”を想定したもの。閑散期である梅雨時や冬は「1室7000円前後で販売するケースも少なくない」(某ホテル事業者)という。繁忙期と閑散期で客室料金が2倍違う、このジェットコースターのような価格変動がホテル事業者の悩みの種でもある。

 そうは言っても、やはり世界有数の観光地である京都に拠点がないのは寂しいという気持ちが先行し、19年もホテルマネージメントジャパンや三交インが京都初進出を果たしている。これらに加えて、19年はハイアット、アマン、エースホテルといった外資ブランドも新ホテルの開業を控えている。

 競争がより激しくなる中、今後、ホテル各社に求められるのは差別化ではなく、認知度の向上だ。某ホテルチェーンの担当者は、「現在、ホテルのリスティング広告は2人分が完全に埋まっているが、1人分は結構空いている」と語る。それは、京都市内では2人で利用するホテルばかり増えてしまい、1人で利用できるホテルが少なくなっているという結果だ。大手ホテルチェーンや外資ブランドなど、競争が激化している京都のホテル業界ではあるが、需要にも必ず“隙間”は存在する。その隙間をどう埋めるのか、ホテル各社に突きつけられる課題となるだろう。
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