電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第316回

医師の働き方改革促進で医療機器・設備に特別償却


オンライン診断から治療へ

2019/9/13

 医師の過度な労働の負担軽減のため、「医師の働き方改革」に基づく法案作りが進み、先行して、2019年4月1日に医師およびその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器などの特別償却制度が施行された。制度が適用されるのは、19年4月1日~21年3月31日までに取得または製作された器具や備品(医療用機械・装置含む)ならびにソフトウエアで、1台または1基の取得価額が30万円以上のもの。導入した場合、普通償却限度額に加え、特別償却限度額(当該設備などの取得額の15%に相当する額)まで償却することが認められる。

 制度の対象は、労働時間管理の省力化・充実に資する勤務時間短縮用設備や医療機器、バイタルデータの把握のための設備、医師の診療行為を補助または代行する勤務時間短縮用設備(手術支援ロボット手術ユニット、コンピュータ診断支援装置、SPECTやCTなどの画像診断装置)、電子カルテ、カルテ自動入力ソフトウエア、レセプトコンピューターなどと並び、遠隔医療を可能とする勤務時間短縮用設備も加えられ、医療機器、病院の設備など技術的な面から医師をはじめ医療スタッフの勤務時間の一部の短縮を実現しようという狙いだ。

オンライン診療科を創設

 このうち、遠隔医療の設備では、遠隔診療システム、遠隔画像診断、迅速病理検査システム、医療画像情報システム、見守り支援システムなど、医師が遠隔で診断することに資するものが対象となる。

 遠隔医療については、19年4月の特別償却制度発足の1年前、18年度の診療報酬改定において、「オンライン診療科」などが創設された。それまでは、離島へき地の患者などの対面診療の補完として限定的に利用を想定していたが、情報通信技術の著しい進歩を背景に、通院が困難な患者の負担軽減、医師・医療スタッフの負担軽減、医師の偏在の解消など現場の要請の高まりに伴って創設した。同時に、情報通信機器を用いた診療の定義を「遠隔診療」から、新たに「オンライン診療」へと変更した。

 ちなみに、株式会社矢野経済研究所が2017年9月14日に発表した「遠隔医療市場に関する調査(2017年)」では、2015年度の国内遠隔医療市場規模(遠隔画像診断市場、遠隔病理診断市場、遠隔診療市場、遠隔健康管理市場の合算)は122億6900万円で、これが19年度には、18年度の遠隔医療の診療報酬プラス改定効果もあり、199億600万円になると予測していた。

5G通信規格背景にオンライン手術が身近なものに

 20年度の診療報酬改定に向け、オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会において、対象疾患拡大の協議が続けられている。

ダ・ヴィンチ(資料、小牧市民病院にて2019年3月16日撮影)
ダ・ヴィンチ
(資料、小牧市民病院にて2019年3月16日撮影)
 現在のオンライン医療が主に「診断」を指すのに対し、19年3月29日に開催された第3回検討会では、弘前大学大学院消化器外科学の袴田健一氏が、オンライン手術(遠隔手術)を検討項目に追加するよう提案した。

 手術支援ロボットによる現在の手術は、術者2人が各コンソールを操作し、1人の患者に施術する。術者2人は、熟練度に応じて高難度部分と低~中難度部分をそれぞれ担当する。袴田氏によると、2人の術者のうち高難度の手術部分を担当する術者が、この手術室内とは距離が離れたところに居てもこの手術は可能であり、ロボット手術の技術の均てん化に貢献できる。また、遠隔地に出向く移動時間が不要となり、心身の負担が軽減されるとしている。

 これまで、2001年にアメリカの医師がフランスの患者の遠隔手術を施したことがある。この時は、ネットワークの速度が遅く、操作遅延が指摘されたが、2019年1月には、中国福建省福州市長楽区の執刀医が、福州市鼓楼区の豚「患者」の肝小葉を切除した。20Gb/秒の通信速度を備える5G通信規格により、操作遅延が解消されている。もともとこのロボットは、戦場の兵士を遠隔地から手術することを想定して米軍が開発を進めたもので、本来の活用方法といえるが、少子高齢社会での医療提供体制にも貢献する可能性を秘めている。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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