デバイス1個単位からの生産に柔軟に対応する世界初・日本発の生産モデル「ミニマルファブ」。2017年4月からは「ミニマルファブ推進機構」がミニマルファブ構想の実現を加速すべく、技術開発の業界団体として事業をスタートさせている。これまでは産業技術総合研究所(つくば中央第2)内にある開発拠点をベースに、各社が装置技術の改良・改善に取り組んできたが、産総研の臨海副都心センター内に企業の試作などを受託する新たな拠点が立ち上がり、本格事業化に向けて新たな段階へと歩み出した。産総研 ナノエレクトロニクス研究部門首席研究員/ミニマルシステムグループ長/ファブシステム研究会代表の原史朗氏に開発の現状、今後の展望について伺った。
―― 臨海副都心センターに新拠点が立ち上がりました。
原 最新のミニマル装置30台を設置し、産総研の臨海副都心センターに新拠点(カールツァイス製電子顕微鏡も完備)を立ち上げることができた。年内にはさらに30台の最新装置を導入(計60台規模)し、前工程から後工程までの一貫ラインを整える。これにより、企業からの試作依頼など、ビジネスの出口としての役割を担うことになる。
なお、ミニマル装置はボタン1つで操作できるフルオートであり、装置のインターフェースも共通化している。そのため、クラウドサービスを活用することで、スマートフォンの画面上でも処理状況を確認したり、装置の操作を可能にするなど、従来の半導体製造の常識では考えられない柔軟性、利便性を実現できる。すでに、装置メーカーが遠隔操作でバグフィックスするようになってきた。
―― 海外でミニマルファブの関心が非常に高まっていますね。
原 おかげさまで非常に多くの引き合いをいただいている。周知のとおり、18年9月に台湾の金属工業研究発展中心(MIRDC)とミニマルファブ推進機構が、台湾でのミニマル発展に向けてMOUを締結した。
そのほか、欧州でドイツに次いで半導体工場が立地しているロシアで、産業化システムの一手段としてミニマルファブが高い評価をいただいている。なかでもモスクワ国立電子技術学院(MIET)は、すでに予算化を検討いただいており、近い将来導入いただけると期待している。
そのほか、チェコでは、LP-CVD装置などを手がけるSVCS Process InnovationがALDミニマル装置の開発を進めており、開発ライセンスのユースケースになるだろう。そのほか、オランダなどでもMEMSの試作向けにミニマルファブを検討する動きもあり、欧州版ファブシステム研究会の発足も見据えているところだ。
―― 装置技術開発の進捗について。
原 ミニマルのイオン注入装置では、すでに超小型化を克服し、注入試験が進められている。小型化ゆえの不均一性が課題となっていたが、スキャン方式を採用することで課題の解決を進めている。
また、シリコン窒化膜(SiN)に向けたプラズマCVD装置では、東北大学の後藤哲也准教授の協力により、ECR(サイクロン共鳴)を用いたミラー磁場閉じ込め技術を開発した。これにより、低ダメージでSiNを成膜することができる。
そのほか、ユニークな技術としてミニマル水プラズマアッシング技術などもある。アルミやシリコンは溶かさずに、レジスト膜を高速かつクリーンに除去でき、従来のアッシング手法が抱える課題の多くを解決することができる。
―― 今後の開発ロードマップについて。
原 21年度末には100工程程度のセンサー製造向けに生産ラインを提供したい。その後、23年度末ごろまでには0.5μmによるLSI生産ラインの立ち上げと、さらに次世代としての0.35~0.25μmプロセス技術の開発を視野に入れている。
皆さんの関心が非常に高い露光技術では、DLPに加えて、EBの開発も進めている。ただし、EBだけで露光を行うとハーフインチウエハーでも7時間を要するため、領域によって光とEBを使い分けていくことになるだろう。
(聞き手・編集長 津村明宏/清水聡記者)
(本紙2019年8月29日号10面 掲載)