電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第347回

「韓日は1500年以上の深い交流の歴史、その中で非常に短い葛藤という認識が必要」


~サンスターライン創立20周年記念式典における大韓民国総領事の発言の素晴らしさ~

2019/8/23

 「今の荒波に屈することなく、より強いチャレンジ精神と、より粘り強い心構えでこの波を乗り越えていきましょう。目の前にはたくさんの障害物が見えていますが、韓日は1500年以上の深い交流の歴史があるのです。その中で非常に短い葛藤はありますが、長い友好の時期があったことを忘れないでください」

 この挨拶を聞きながら、筆者の心の中にはある種の感動の波が訪れていた。これは、大阪におけるサンスターライン創立20周年記念式典において駐大阪大韓民国総領事館の総領事である呉泰奎氏が語った祝辞の一節である。2019年8月8日のことであった。

 まさに日韓経済戦争ともいうべき状況が激化しているなかにあっての発言であるだけに、聞いている人たちの多くは驚きながらも皆、深く頷いていた。それはそうだろう。いかなる理由があっても、隣国同士が歯をむき出しにして醜くののしり合うことが、よいことだとは誰も思っていないからだ。

 もっとも8月15日の光復節において、韓国の文大統領はかなりトーンダウンした発言を行い、「日本からの呼びかけがあればいつでも回復と友好の道は開かれている」というような挨拶を行った。反日不買運動などの盛り上がりに対して、少し諫めるかのような口調であったのだ。

 さて、サンスターラインは、韓国におけるパンスターグループの日本におけるカンパニーである。1999年に日本現地法人として事業を開始し、まずは釜山・大阪間の船の運航で地歩を築いた。2010年には釜山・大阪クルーズは乗客1000万人を突破した。

 その後、東京、名古屋、金沢、さらには下関などの日本各地から釜山につながる運航を次々と確立し、韓日物流の大動脈を築いていく。自社によるフェリー船舶で韓日間を18時間で運行するなどの超特急サービスが功を奏し、半導体製造設備、建設機械、プレス機械などコンテナで不可能な貨物に対しての定期輸送を可能にしていった。

 言うまでもなく、韓国の貿易依存度は非常に高く、2017年段階で67.6%にも達している。貿易のうち輸出だけを見ても韓国の輸出依存度は37.7%もあり、まさに韓国経済の動脈線ともなっているのだ(ちなみに日本は内需中心の国であり、貿易依存度は27.4%、輸出依存度については14.1%しかない)。

 昨今の輸出管理を巡る問題で韓国政府はかなり大騒ぎしているが、ある種それは無理もない。韓日間での輸出不振からくるGDPへの影響度が、韓国の方が日本より1.7倍大きいからだ。もちろん、韓国と日本をつなぐ半導体製造装置の輸送などを主力とするサンスターラインにとっては、この韓日政府の対立は実に困ったものだと言ってよいだろう。

 「サンスターラインの20周年が象徴しているように、韓国と日本は切っても切り離せない緊密な関係にあるのです。相互3位規模の貿易相手国であり、2018年には人的交流が史上初の1000万人を突破しました。皆さまもご存じのように、最近、韓日の間には荒波が立っています。残念ながら政治的な葛藤が経済分野にまで広がり、韓日関係全般が冷え込んでいるのは事実であります。これはたいへん残念なことです。どうあっても克服しなければなりません」

 ちなみに、大阪港を利用する訪日客の約8割は韓国人が占めている。つまりは、サンスターラインが絶大的に寄与している。とりわけクルーズ船のパンスタードリーム号は釜山と大阪を行き来しながら、韓国および関西間の人的交流に大きく貢献している。2018年9月に台風21号が発生した時には、韓国観光客のための災難救護船の役割も十分に果たしたことで、大阪観光局から感謝状も授与されている。

(株)サンスターライン 代表取締役社長 野瀬和宏氏
(株)サンスターライン
代表取締役社長 野瀬和宏氏
 それにしても、この記念式典は実に楽しいものであった。韓日政府が激しく対立しているというのに、民間の人的交流はいささかも傷ついていないとの印象があった。サンスターラインの代表取締役社長である野瀬和宏氏は「一日も早く、今回の韓日政府間の紛争が終息することを願っている。両国ともに発展するという基本的な思想はいささかも変わっていないのだ」とコメントしていた。

 ちなみに、品質もデザインも世界最高クラスのユニクロの不買運動が韓国中で起きているというが、アマゾンなどのユニクロのネットセールスでは韓国ユーザーが殺到し、買いまくっているという事実は、誰にも否定できないだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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