シャープ福山セミコンダクター(株)とシャープ福山レーザー(株)は、5月に米サンノゼで開催されたディスプレーの国際学会「SID(the Society for Information Display)Display week 2019」で、0.38インチで1053ppiを実現したモノリシック型フルカラーマイクロLEDディスプレー「Silicon Display」を発表した。モノリシック型でフルカラーを実現したのは世界初だ。開発メンバーの一人であるシャープ福山セミコンダクター(株)の大沼宏彰氏に話を聞いた。
―― 開発の経緯からお聞かせ下さい。
大沼 シャープはその電子デバイス事業としてLEDおよびドライバーICの製造プロセスから、SoF(System on Film)やSiP(System in Package)といった組立技術、蛍光体技術にいたるまで、マイクロLEDに必要な全プロセス技術を有している数少ない企業であり、マイクロLEDの実現にはこれら技術のすり合わせがカギとなると考えたのがきっかけだ。今後大きな市場成長が期待できるAR(拡張現実)ヘッドセット用のディスプレーとして実用化を狙っている。
―― 開発品の構造およびスペックについて。
大沼 発光波長450nm近辺のGaN青色LEDを8×24μmサイズでサブピクセルを作り込み、これを0.38インチのアレイに切り出して、シリコンウエハーで別途作製したバックプレーン(駆動回路)に貼り合わせた構造をしている。画面サイズ0.38インチに画素ピッチ24μmで352×198の解像度を有し、1053ppiを実現した。輝度は165mA駆動時に1000cd/m²で、国際的な色空間の標準規格であるsRGB比で120%を達成している。
―― まずLED部分について詳しく。
大沼 高さを揃えた片面電極構造の青色LEDをサファイアウエハー上に作り込んでいる。サブピクセルのサイズは8×24μmで、RGBで1画素24×24μmというサイズになる。
―― これを切り出してシリコンバックプレーンに貼り合わせるのですね。
大沼 シリコンバックプレーンは今回0.18μmルールで設計・製造した。片面電極のLEDをフリップチップ接合するため、これを念頭に置いた回路設計にしている。
LEDの電極とシリコンバックプレーンの電極はAu-Auの熱圧着で接合している。接合で重要になるのがアライメントの精度だが、詳細はお話しできないものの、かなりの工夫を凝らした。接合後にレーザーリフトオフでLED薄膜チップをサファイアウエハーから剥離する。
―― 赤色と緑色は色変換技術で出していますね。
大沼 シリコンバックプレーンと接合したLEDチップ上に、青色を赤色および緑色に変換する量子ドット蛍光体層をフォトリソプロセスで形成している。
この際、隣り合うサブピクセル同士のクロストーク(混色)を防ぐため、サブピクセル間にLight Shielding Wall(LSW)という側壁を作り込んでいる。LSWを作り込まなかった場合、色空間はsRGB比で6.0%にとどまるが、作り込むことで120.5%に高まる。
―― 今後の目標は。
大沼 今回開発した1053ppi品は技術実証の意味合いが強く、製品化に向けて3000ppiの実現に着手している。すでに画素ピッチを24μmから8.4μmに微細化した3000ppiの青色単色0.13インチディスプレーの開発に成功しており、これをフルカラー化していく計画だ。
量産化に向けては、量子ドット層を含めてさらなる微細化が必要になるが、最も重要な点は屋外でも高い視認性を実現できる高輝度化だと考えている。先行技術であるマイクロ有機ELディスプレーが商品化されているが、それを超える輝度を実現する必要がある。並行して、どのレベルの解像度であれば、実製品に搭載していただけるのかも探っていきたい。
(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2019年8月8日号6面 掲載)