電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第306回

黄昏の日の丸太陽電池、もう結晶シリコンでは勝てない


タンデム型、ペロブスカイトは救世主になるか

2019/7/5

 日本の太陽電池(PV)メーカーの影が一段と薄くなってきた。2018年における日本企業のPVモジュール出荷量の総計は約3.2GWだったが、これは出荷量トップの中国Jinko Solarの3分の1以下に過ぎない。

 ここまで出荷量が少なくなると、当然ながらグローバルの出荷競争からは完全に脱落しており、しかも生産量は年々減少している。価格や販売量で勝負できないPVビジネスにおいて、日本メーカーはどのような戦略で生き残りを図ろうとしているのか。

世界導入量100GW

PV世界導入量の推移
PV世界導入量の推移
 18年もPVの世界導入量は順調に増えた。18年のPV導入量については、IEA(国際エネルギー機関)が99.9GW、Solar Power Europeが102.4GWという調査結果を報告しているが、いずれにしても世界市場で順調に導入が進み、ついに年間導入量が100GWの大台に達した。

 PVは発電コストが低下したことで、すでに最も安価な電力源になっており、FIT(固定価格買取制度)のような導入支援政策に頼らない自律成長が始まっている。18年は中国、インド、日本などの市場が伸び悩んだが、新興市場が相次ぎ立ち上がるなど、世界市場全体では安定した成長を果たした。

 19年の導入量も18年比2割増という高い成長が見込まれている。Solar Power Europeはミディアム・シナリオで128GW、IHS Markitも129GWと予測しており、中国や米国、欧州が市場を牽引する見通しだ。

生産増強進む

2018年モジュール出荷トップ10
2018年モジュール出荷トップ10
 旺盛な需要を追い風に、PVメーカーのモジュール出荷量も拡大している。18年のモジュール出荷トップはJinko Solar(11.4GW)で、16年以来、3年連続で首位を守った。2位以下もJA Solar、Trina Solar、LONGi 、Canadian Solarなどの中国勢が独占している。

 6位には韓国Hanwha Q Cellsが食い込んだが、7位以降も中国勢が続くなど、上位10社の大半を中国勢が占めている。ちなみに、上位10社の合計出荷量は64GWで、世界導入量に占めるシェアは6割強となっている。

 シェア拡大を図るため、PVメーカーの生産増強も加速している。Jinko Solarの18年末の生産能力は10.8GWだったが、19年末には15GWに増強する。さらに、同社は四川省に単結晶Siウエハーの新工場(5GW)を建設中。19年末には11.5GWになる予定。

 JA Solarは18年末の9GWに対し、19年末には13GWに、Canadian Solarも18年末の8.8GWに対し、19年末は11.2GWに拡張する。

 世界最大の単結晶SiウエハーサプライヤーであるLONGiもウエハー、セル&モジュールの生産能力を大幅に引き上げる。18年末の生産能力はインゴット&ウエハーが28GW、セルが5GW、モジュールが8.8GWだが、19年末にはインゴット&ウエハーが36GW、セルが10GW、モジュールが16GWになる。

 20年以降も増強を進め、21年末の生産能力はインゴット&ウエハーが65GW、セルが20GW、モジュールが30GWになる予定だ。

FITとともに去りぬ

 かつてはPVの生産&販売で我が世の春を謳歌した日本のPVメーカーだが、中国勢の怒涛の攻勢の前に、今ではすっかり存在感がなくなってしまった。それでも、国内市場は12年7月からスタートしたFITで大きく成長し、日本企業も出荷量を大きく伸ばした。

 14年には日本企業のモジュール出荷量は6.8GW(JPEA統計)に達したが、これをピークに、以後、出荷量は減少の一途を辿る。ちなみに、18年の出荷量は3.2GW(同)で、ピーク時の半分以下に減少した。

 PVの販売減でPVメーカー各社は相次ぎ生産体制を縮小した。京セラはセル&モジュールを生産していた八日市工場(滋賀県東近江市)を閉鎖し、国内生産を野洲工場(滋賀県野洲市)に集約。三菱電機も18年3月で中津川製作所飯田工場(長野県飯田市)のセル生産を終了し、PVセルの製造から撤退した。

 ソーラーフロンティアは16年7月から稼働した最新の東北工場(宮城県大衡村)の生産を休止し、主力の国富工場(宮崎県国富町)に集約している。

パナソニックもPV生産を縮小(写真はパナソニックのHIT)
パナソニックもPV生産を縮小
(写真はパナソニックのHIT)
 パナソニックも18年3月で滋賀工場のPVモジュールの生産を終了し、モジュール生産をマレーシアと米国の拠点に移したが、19年5月には、そのマレーシア工場を中国GSソーラーに譲渡すると発表した。マレーシアでのPV生産からは撤退するが、マレーシア工場で生産したPVモジュールについては、今後も調達・販売を続けるという。

米国勢は投資継続

 出荷競争についていけない日本のPVメーカーが事業縮小に追い込まれるなか、まだ頑張っているのが米国勢である。First Solar、SunPowerの米国2社はいずれも18年度の業績が厳しかったが、それでも積極的な技術開発と設備投資を続けている。

 First Solarは18年度の営業利益が前年同期比で8割減少したが、CdTe太陽電池の出荷量は2.8GWと、前年度の2.7GWを上回った。18年度はオハイオ、マレーシア、ベトナムの3工場で新型モジュール「6シリーズ」の生産が始まり、オハイオ第2工場の建設計画も進行中だ。19年4月の時点での累積予約販売数量は12.2GWに達しており、19年度の出荷量は5.4~5.6GWと、18年度比で倍増する見込みだ。

 SunPowerも業績面で苦戦が続く。18年度の売上高は前年同期の水準を維持したが、粗利益率の悪化や減損の計上などで、営業損益は8億ドルを超える赤字だった。出荷量は1.3GWだったが、19年度は1.9~2.1GWを計画するなど、積極的な販売戦略を打ち出している。技術開発では次世代技術で中国勢との技術開発競争に挑む。

新型IBCセル(SunPower)
新型IBCセル(SunPower)
 SunPowerは正極、負極の2つの電極を裏面側に配置したバックコンタクト(IBC)型セル「Maxeon」を展開しているが、第5世代の新型「Maxeon」を開発した。材料や製造装置、製造プロセスを刷新し、セル面積を従来の5インチから6インチに大型化しつつ、変換効率25%を実現しており、セル面積が従来比で65%増加したことで、発電効率が大幅に向上した。104枚のセルを用いたモジュールの出力は400~415Wとなっている。

中国にも淘汰の波

 PVの出荷競争で上位を独占する中国勢だが、一方で中国勢同士の競争も激化している。かつてはトップ10メーカーだったYingli Green EnergyやRenesolaはすでに最前線から脱落しており、Suntechも収益悪化で事業売却が囁かれている。

 Yingliは12~13年に2年連続で出荷トップに立ち、17年まではトップ10内にとどまっていたが、収益面では14年度以降は赤字が続いていた。18年度は出荷量が1.7GWにとどまり、売上高も前年同期比で半減した。そして、18年には上場廃止となった。

 Renesolaもかつてはトップ10メーカーの常連で、ポリSi、Siウエハー、セル&モジュールまでの垂直統合型ビジネスを展開していたが、業績低迷が続いたことから、17年にはプロジェクト開発に特化し、PVの製造から撤退した。

 台湾勢もPVの事業環境は厳しい。最近では、E-Ton Solar Techが収益悪化でセル生産を停止したことを発表している。また、18年10月には、Neo Solar Power、Gintech、Solartechの3社が合併し、台湾最大のPVメーカーであるUnited Renewable Energyが誕生した。

 3社は近年、価格競争の激化で収益が悪化していたが、台湾政府の支援を受けて、合併による生き残りを決断した。従来のセル中心のビジネスから、付加価値の高い高出力モジュールの販売およびシステム開発に舵を切っている。

日本の選択は

 00年代前半まではPVの生産&販売でトップを独占していた日本メーカーだが、コスト競争&大量生産時代に入ると、相対的な競争力が急速に低下した。「得意の技術力で巻き返しを図る」と言いたいところだが、すでに技術開発でも中国が世界をリードしつつある。Jinko Solarはp型単結晶PERCセルで変換効率24.38%、Trina SolarもTOPCon型の両面受光セルで変換効率24.58%を達成している。

 「中国勢とのコスト競争は厳しい」、「結晶Siの変換効率は理論限界に近づいている」といった現状を鑑みると、これ以上、日本のPVメーカーが結晶Siで競争するのはかなり難しいだろう。ただ、結晶Siとは異なる、新しいコンセプトのPVであれば、まだ勝機は残されているかもしれない。

フレキシブルPSCモジュール(東芝)
フレキシブルPSCモジュール(東芝)
 例えば、2種類以上の発電層を積層したタンデム型ではSiの理論限界を超える変換効率が期待できる。高効率だがコストも高いIII-V族では、HVPE(ハイドライド気相成長)による高速成膜で製造コスト低減が期待できる。

 そして、世界中で開発が加速するペロブスカイト太陽電池(PSC)も実用化が近づいている。

 日本勢がこうした新技術でどこまで戦えるかは分からないが、まだまだ続く再生可能エネルギーの普及拡大を考えると、PVから手を引くには早過ぎる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

サイト内検索