電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第340回

「核兵器廃絶」「地球環境保護」「平和の希求」がゴジラのテーマ


~ハリウッド版の最新作は超面白くて、かつボロボロに泣けるのだ~

2019/6/28

 映画のエンドロールが始まると、あちこちからすすり泣きの声が聞こえてきた。観客たちははるか南方の彼方にあるインファント島を思い浮かべたことであろう。筆者もまた「まいったなあ」とつぶやき、目に涙であった。

 ハリウッド版ゴジラの最新作『ゴジラ/キングオブモンスターズ』を桜木町のシネコンで見た時のことである。IMAXで、しかも3Dの立体映像であったからして、ゴジラ、ラドン、そしてキングギドラの暴れぶりはあまりにすさまじく、ド迫力に圧倒されてしまった。しかして重要なことは、ゴジラ映画に共通のテーマはこのハリウッド版においても、全く同じように通奏低音のようにしっかりと流れていたのである。

ゴジラ映画の底流にはいつも「平和の希求」がある
ゴジラ映画の底流にはいつも
「平和の希求」がある
 それはすなわち、大怪獣ゴジラを生んだものは水爆であり、おびただしい放射能が古代生物を蘇らせたということである。1957(昭和29)年のゴジラ第一作において示された原水爆のない世界に対する希求、そして戦争のない平和への願いは、ゴジラ生誕65周年を迎えた現在にあっても全く変わらない。地球環境を無視した山林の伐採や、海洋への廃棄物の不法投棄、そしてまた自動車や工場が生み出す排気ガス、有毒物がこの地球の生態系をおかしくさせていることを、この映画はやはり強く訴えている。

 「お気持ちは嬉しいが、ゴジラを倒すために核兵器を使うことはできない。広島、長崎で原爆を被爆した唯一の国であるこの日本が、たとえゴジラの脅威を取り除くという目的であっても、この東京で核兵器は使えない」

 これは1984(昭和59)年版の『ゴジラ』において、小林桂樹という東宝の看板役者が日本の総理大臣に扮して米国の大統領に対し激しく語った言葉なのだ。そしてまた、小林桂樹は「もし、あなたの国で、ニューヨークにおいて、ゴジラに対抗するために核兵器を使うことができるのか?」と米国政府に問いかけていくシーンの凄まじさはすごいものがあった。この時の映画の主演である夏木陽介もまた、ゴジラの怖さに対するトラウマを抱えているが、それでもゴジラと共生していくという考えを持っていた。

 今回のハリウッド版新作における重要な役どころである女性の博士は、同じく「私たちは多くの怪獣たちと共生していかなければならない。彼らは私たちの敵ではない。彼らを生み出した人間の心、卑しさ、欲望こそ、憎むべきものなのだ」と主張する。

 これから映画を見る人のために、あまり筋立ては語らない方がいいだろう。しかして、この映画で重要な存在は、実のところ「モスラ」なのである。宇宙からの脅威であるキングギドラは地球を壊滅させるべく暴れまわっている。これに対抗するゴジラは完膚なきまでに叩きのめされてしまう。

 すべての人が絶望のどん底にいる時に、またしても平和の使者であるモスラは金色の羽根を羽ばたかせて、空高く飛び立ってくるのだ。そしてゴジラを蘇らせるのだ。この場面に感動しない人間はいないだろう。どのような争いも戦いも、必死になって止めようとするモスラは、映画の中では彼女と呼ばれている。つまりは戦争をやりたがる男たちを止めるのは、いつも優しい女性たちなのだ、というテーマ性がモスラの存在をより鮮明なものにしている。

 今日にあっても中近東をはじめとして、戦争が絶えることはない。いつになったら人類は戦争という呪縛から逃れることができるのか。その日が来るかはわからないが、戦争のない平和が真に達成された時に、初めてゴジラ映画はその完結編を迎えることになるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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