電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第328回

大阪府立大学 学長 辰巳砂昌弘氏


全固体やリチウム硫黄電池を開発
NEDOなど国プロに参画

2019/6/21

大阪府立大学 学長 辰巳砂昌弘氏
 リチウムイオン電池(LiB)を代替する高サイクル特性、急速充放電、高エネルギー密度に対応した次世代蓄電池の研究開発が活発だ。我が国では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(SOLiD-EV)」や同科学技術振興機構(JST)の「先端的低炭素化技術開発 次世代蓄電池(ALCA-SPRING)」といった国家プロジェクトが代表的だが、そのキーパーソンとなるのが大阪府立大学 学長の辰巳砂昌弘氏だ。同氏に話を聞いた。

―― 次世代蓄電池開発の取り組みについて。
 辰巳砂 国プロでは、NEDOのSOLiD-EVで硫化物系全固体LiB、JSTのALCA-SPRINGで全固体リチウム硫黄電池の開発を進めている。
 前者は、ALCA-SPRING(第1期、2014~18年度)において我々硫化物型全固体電池研究チームが実施した無機固体電解質を用いた全固体LiBの研究成果を移管したうえで進めている産官学プロジェクトだ。基礎研究ではなく、実用化に向けてプロセス上の様々な課題の解決に力点を置いている。期間は18年6月からの5年間だが、期間内の製品化も考えられる。
 実施体制は、代表機関の技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)が受託先となり、自動車・二輪車メーカー、蓄電池メーカー、材料メーカー、大学・国公立研究機関などから多くの人が集まっている。大学・研究機関はサテライトとして参画し、開発成果などをLIBTECと共有している。
 後者は18年度から5年間のプロジェクトで、全固体LiBに続く次世代技術として、界面構築、材料プロセス、電池設計などをテーマに開発研究を進めている。用途としては第一に定置用電源が考えられるが、車載への応用も期待できる。
 一方、文部科学省の科学研究費助成事業(科研費)「基盤研究S」では、全固体イオニクスデバイスのダイナミクスに関する基礎研究も行っている。これは固体―固体界面の挙動に着目したもので、固体電解質―電極界面におけるイオンや電子の動き、充放電における電極の膨張・収縮などを総合的に制御・解明することを目指している。
 このほか、自動車メーカーや材料メーカーなどの企業との直接的な共同研究も行っている。

―― 全固体LiBの実用化について。
 辰巳砂 全固体LiBは従来LiBの有機電解液を無機固体電解質に置き換えた蓄電池だ。固体電池の研究自体は30年以上前から世界中で実施されてきたが、現実味を帯びてきたのはここ数年のことだ。
 カギとなるのが硫化物系や酸化物系などの固体電解質だが、実用化が早いのは硫化物系だ。硫化物系はイオン導電率10ミリジーメンスを達成し、かつリチウムイオンのみが伝導する。これにより、スーパーキャパシタ並みの高出力が得られる。また、成形性が高く、室温における一軸プレス成形で緻密な成形体が得られる。プレス圧力を増加していくと粒子同士がより強く結合し、緻密性が増すことも確認している。
 一方、最大の弱点が、水分に対して安定性が低い点だ。そのため、露点管理された不活性ガス雰囲気のグローブボックスでの取り扱いが基本となり、電解質のプロセスコスト低減に向けた電解質の耐湿性向上が重要となる。
 また、組成によって異なるものの、大気にさらすと加水分解で硫化水素ガスが発生するという課題がある。これに対して、電解質中の硫黄を酸素や窒素に置換する、または硫化水素吸着材として機能する金属酸化物微粒子を分散させることで硫化水素ガスを抑制する方法が検討されている。
 酸化物系は化学的安定性が高く、大気中での合成や管理が可能だ。プロセスコスト低減を考えると、最終的には酸化物系が望ましい。ただし、粒子同士を接合するには高温での焼結プロセスが基本となり、現状ではプロセスコストがネックとなっている。また、イオン導電率は硫化物系より低いものが多く、作動温度を高める必要がある。
 なお、焼結温度低温化の手法の1つとして低融性ガラス電解質が検討されており、常温加圧焼結が確認できている。

―― 全固体リチウム硫黄電池についてはいかがですか。
 辰巳砂 正極活物質に硫黄や硫化リチウム、負極活物質にリチウム金属やシリコン、固体電解質に硫化物系を採用した蓄電池だ。正極活物質と固体電解質が共に硫化物系材料であることから界面設計が容易になるという特徴を持つ。作動電圧は約2VとLiBより低いものの、理論容量が11000mAh/g以上と高いことから、高エネルギー密度が期待できる。

―― 課題と成果を挙げて下さい。
 辰巳砂 課題は様々あるが、その1つが正極・負極の膨張・収縮を繰り返すことによる劣化で、サイクル特性を低下させる要因となっている。硫化物型全固体LiBと同様に硫化水素ガスの発生も挙げられる。
 成果としては、試験セル(ハーフセル)で2000サイクルの可逆性を確認した。正極材の容量は900mAhで、エネルギー密度は既存LiBの2倍程度の400W/kg以上だ。今後、高容量材料の開発や、プロセスの最適化を進めることでさらなる高性能化を図っていく。

(聞き手・東哲也記者)
(本紙2019年6月20日号7面 掲載)

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