電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第334回

「よく会社は潰れなかった。私は今ここに立っている」


~納入業者徹底重視の野村マイクロ・サイエンスが迎えた50周年~

2019/5/17

 「たった11人の船出であった。この会社はよく潰れなかった。私は今ここに立っている。それもみな、私たちを支えてくれた納入業者の皆さんのおかげである」

50周年記念会で挨拶される千田豊作氏
50周年記念会で挨拶される千田豊作氏
 創立50周年を迎えた野村マイクロ・サイエンスの代表取締役会長兼CEOの千田豊作氏が、記念パーティーの壇上で語った言葉である。同社は、半導体など電子デバイス向けの超純水製造装置の大手メーカーとして知られており、2007年にはJASDAQ証券取引所に上場し、社会的にもかなり知名度を上げてきている。最近では、薬液用金属除去モジュールがイオン交換学会において技術賞を受賞するなど、その先端技術には磨きがかかってきている。

 「とにかく、当初はメンブレンフィルターありきの会社であった。GEが開発したものだが、この極東地区販売権を獲得したことが始まりであり、その後、若い人たちがフィルターから超純水製造装置を作り上げていった。1975年にはNTTの武蔵野通研に納入し、電子産業市場に本格進出することになる」(千田会長)

 しかして、野村マイクロの立ち上げは大変なものであった。まさに、11人しかいないメンバーで泥船に乗り込む船出のようなものであった。メンブレンフィルターはあっても、このアプリケーションがなかなか見つからなかった。創立からずっと長い間赤字を出し、8年目で売り上げ7億円となり、ようやく黒字に転換する。1983年には韓国のサムスンに超純水製造装置を納入し、韓国市場に進出する。これが一気上昇のきっかけになる。瞬く間に30億円の売り上げを記録する。そして1985年には台湾市場に進出し、超純水製造装置を雨あられのごとく売り上げていくのだ。

 「今日にあって野村マイクロは超純水を超える超純水を目指している。電子産業フィールド、環境/エネルギーフィールド、医療/ヘルスケアフィールドを三本柱とし、徹底的な選択と集中を実行していく。50周年を迎えたが、水の極みを追求し、さらなる研究開発に踏み込んでいく」

 力強くこう語るのは、代表取締役社長兼COOの八巻由孝氏である。八巻氏は地球環境を守ることは会社のミッションである、とひたすら強調していた。最近では、中国における浄水および汚水処理事業などにも力を入れており、超純水で培った技術の横展開を図り始めているのだ。製薬向け超純水製造装置も定評があるところであり、注射用水製造装置などにも展開している。そして何よりも、回収率90%以上のRO(逆浸透膜装置)であるヒーロー(HERO)は同社におけるお家芸ともいうべきものであり、こうした先進の超純水技術は半導体をはじめとするデバイス製造を常にリードしていくものだと考えているのだ。

 50周年式典においては、会長および社長の挨拶に続いて表彰式が行われた。非常に驚いたことは、野村マイクロの納入業者8社のトップが表彰され、そこには大手ユーザーの姿がなかった。本来であるならば、大手のお客様各社を第一に表彰するケースが多いが、野村マイクロの場合は厳しかった昔の時代から自分たちを支えてくれた協力企業の方をより重視している、という姿勢がよく分かった。ちなみに、祝電はクラレ、東洋紡などの繊維メーカーが多く、また東レのメンブレン事業部や水処理・環境事業本部からも多くの賓客たちが押し寄せていた。

 「私たちは50年前はただの配管工事屋でありました。しかし、野村マイクロ・サイエンス様とお付き合いをいただき、一定規模の企業に成長することができました。お金をいただきながら育てていただいたご恩は決して忘れません。最近では、超純水だけではなく、各種薬液やスラリーなどの販売までやらせていただいております。苦しい時代を乗り越えてきた思い出だけがあります」

 こう語ったのは、表彰された納入業者8社を代表して挨拶をされた関西プラスチック工業の代表取締役社長、藤南和将氏である。この挨拶の後で藤南氏と話す機会に恵まれたが、「野村マイクロはとにかく人を大切にする、がキーワードの会社だ。とりわけ、取引先を常に大切にしている」ということを強く語っておられた。そしてまた、200年続いた会社は世界で5600社しかいないが、その56%が日本企業であることも指摘された。「継続性」「地域を重視」「人を大切に」この3つの哲学が日本企業の宝物であり、これが世界に冠たる老舗企業の歴史を作ってきたというのだ。

 野村マイクロ・サイエンスも50周年を迎えて、今後は100周年に向かっての歩みを始めることになる。しかして、これを支えるのはいつにかかって納入業者のパワーであることをはっきりと思い知らされたパーティーであった。何だか不思議に爽やかな気持ちとなり、5月の夜のそよ風に吹かれて、厚木の街を後にしたが、「こういう会社こそ、これからも頑張ってほしい」と心から思った。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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