「一番大切なことは、働いている社員とその家族の幸せだ。ボーリング大会、バーベキュー、年1回のバス旅行は、決して外せない行事である。会社が全額を出しての忘年会も重要だ。数年に1回は社員総出で海外旅行に行く。ラスベガス、ハワイなどで遊び狂い、家族としての絆を強くしていくのだ」
こともなげにこう言い放つこの人こそ、半導体業界のレジェンドともいうべき佐々木保氏である。佐々木氏は現状にあってイーティーシステムエンジニアリング(株)(略称=ETS、東京都八王子市川口町1489-1、Tel.042-654-7151)の会長の任にあるが、半導体業界にその身を投じたのは1964(昭和39)年、東京オリンピックが盛大に開催された年のことである。
佐々木氏は日立半導体で20年間を過ごし、84年に独立し、ETEというベンチャーカンパニーを起業する。バッチ洗浄機を手がけ、当時の国内洗浄機メーカーでは5本の指に入る存在であったという。しかして、バブル崩壊の時に社業が傾く。ところが持ち前の技術力でそこから盛り返し、現在のETSを作り上げたのだ。
「ETSにあっては、一番大切な人は従業員なのである。大概の会社が一番重要なことはと聞かれて、お客様の幸せと答えるだろう。それは当然のことであるが、お客様が喜ぶ技術や製品を生み出すのは、いつにかかって従業員の力なのだ。それゆえに、真の意味での一致団結を図るべく、親睦の時間を常に持っている。我が社においては、レクリエーションも査定されるのだ」(佐々木会長)
現在にあってETSは半導体プロセス洗浄装置の設計、製造、販売、メンテナンスを広範囲に手がけている。いわば“洗浄装置”は同社のお家芸なのだ。
設立は89年10月であるが、前身のETE創業から数えれば35年目を迎えている。工場は八王子に一本化しており、2017年1月には第二工場を完成させ、製造能力を大きく引き上げた。現有の工場敷地は2966m²、建屋は1979m²となっている。
延べ1278台を出荷してきたが、納入実績で一番多いのは自動洗浄装置で、バッチ式が223台、枚葉式が195台となっている。そして手動洗浄装置も112台を数える。これらのうち、シリコン、ガラス、化合物向けの枚葉スピン洗浄・エッチング装置は75台以上出荷している。石英管の洗浄にも強く、44台の出荷実績がある。
国内では半導体メーカー、電子部品メーカー、装置メーカー、材料メーカーなど、著名な企業と多数の取引実績がある。また韓国、マレーシア、台湾などにも出荷実績があり、今後は中国向けが増えてくるともいう。特にマスク・MEMS関連の仕事が多いとしている。
「枚葉式洗浄システムは、MSP-IとMSP-IIの2タイプでシリーズ展開している。ユニット単位で装置を構成・追加・変更可能であり、とにかくカスタマイズに強い。半導体だけでなく、液晶向けの大型ガラス基板対応の装置にも強い。従来型のバッチ式洗浄装置の需要も底堅く、キャリアレスまたはキャリア搬送式の洗浄装置ETC・ETNシリーズの評価が高い。薬品群の使用量低減につながる機能水にも対応しており、環境に優しい装置コンセプトを重視している」(佐々木会長)
全社売り上げはピークで40億円近くまでいったが、最近では利益を重視した身の丈経営を心掛けているという。熟練工を中心に精鋭40人を擁しており、この人材が宝物なのだ。中高年の活用は徹底的にやっている。70歳の営業マンがおり、78歳で現場で働く人もいるというのだから大変なものである。
「我が社には女性の取締役もおり、今後も女性力強化が会社の発展を支えていく。コンセプトとして掲げているのは夢と技術の調和であり、従業員に対してはいつでもどこでもモノづくりに夢を持ってほしい、と訴えている」(佐々木会長)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。