2014年度決算で売上高1兆円を突破して以来、快進撃を続けるTDK。18年度は売上高で前年度比8%増の1兆3700億円、営業利益で同23%増の1100億円に達する見通し。また、2年後の20年度には売上高1兆6500億円、営業利益率10%以上を計画する。設備投資は18年度からの3年間で総額5000億円だ。業績アップと並行し、ビジネス環境も整えた。18年11月には本社を日本橋(東京都中央区)に移転させるとともに、R&D機能の中枢を担うテクニカルセンター(千葉県市川市)には19年1月に新棟を竣工させた。次なる計画達成に向け、TDKが描く新たな事業戦略を代表取締役社長の石黒成直氏に伺った。
―― 日本橋を本社に選んだ理由は。
石黒 会社にとって主役は社員。だからこそ、主役の社員に誇りを持って生き生きと仕事をしてほしいとの願いがある。日本橋は一流企業が数多く集積し、勢いと活気に満ちた、変化を感じられる街。日本橋に吹く風を肌身に感じ、エネルギッシュにかつポジティブに活躍してもらいたい。
―― 2フロアのオフィス構成ですね。
石黒 移転前は7フロアもあった。社員全体が7フロアに分割されると、もうフロアごとに別会社のような存在だ。今回、フリーアドレスを採用し、全社員が同じ空気を吸い一体感が生まれた。また、それとは別に、もう1つのフロアには受付とともに、TDKグループの新たな情報発信基地として体感型ショールームを新設し、顧客とのコミュニケーションの場として開放した。
―― テクニカルセンターの位置づけを教えて下さい。
石黒 本社オフィスでコミュニケーションが深まると、当然より詳細に技術を理解したいのと願望が顧客に生まれる。それを満たすために新棟を建設した。現在、旧棟も改修工事を進めている。当社の開発技術を実際に見て、かつ手に触れ、顧客にとっての具体的な利用法を教示してもらうのが狙いだ。
このため開発技術は、完全完成品ではなく、半完成状態で披露する。未完成の領域を意図的に残すことで、顧客ごとのカスタマイズを加速させる。
―― それはTDKの新たなデバイス戦略の方向性を示唆しているのですか。
石黒 電子デバイスは、進化のみならず、多様化の時代を迎えた。半導体も同様と思う。大口径化と微細化の追求だけでビジネスは成立しなくなった。センサーなどを対象とするMEMS製品も取り込み、多様化に応える必要がある。
電子部品も例外ではない。インダクターはチップ積層型、薄膜型、巻き線型の3タイプを用意しており、このうち実装スペースの狭小化にはチップ積層型や薄膜型が対応するが、車載や産業機器用途など大容量/大電流対応を求める顧客には巻き線型を提供する。また同時に、3タイプごとに顧客のニーズは様々であるため、技術は半完成状態で披露し、顧客の個々のニーズを取り込んでいくことでラインアップの拡充と強化を図っていく。
―― 積層セラミックコンデンサー(MLCC)も同様の戦略で展開しますか。
石黒 当社のMLCC全出荷量の約60%を車載用途が占める。クルマの3大機能「走る」「曲がる」「止まる」を、CTQ(クリティカル・ツー・クオリティー)の追求で徹底サポートする。3大機能に加え、自動運転をにらんだADAS(先進運転支援システム)機能にも応えていく方針だ。
そのほかの産業機器用途や基地局などのIoTインフラ用途など、マーケットごとの特異なニーズに応えつつ、同時に付加価値化も進める。樹脂電極なども工夫を重ね、基板のたわみ吸収構造や高耐熱性強化などをラインアップに組み込んでいく。
―― センサーの戦略については。
石黒 自社保有の技術とM&A戦略を融合させ、磁気センサーとMEMSセンサーによるビジネス体制はほぼ構築を完了した。磁気センサーは現在、順調にマーケット領域を拡大中で、先陣を切っているのがTMR(トンネル磁気抵抗)センサーだ。市場攻略はスマートフォン(スマホ)用途からスタートしており、現状はカメラモジュールのアクチュエーターとして応用分野を拡大中。今後は車載にも触手を伸ばしていく方針で、さらなる収益拡大が期待できる。課題はMEMSセンサーの事業展開だ。
―― その難しさとは。
石黒 バランスの取れた設計技術の確立と考える。MEMSセンサーの機能は多岐にわたるので、求めるパフォーマンスを明確にすること。そのうえで、センサーは露出状態で使用することが多いため、ロバストネス(外的要因に対する耐性)に配慮する必要がある。これに消費電力の課題が絡む。3要素を満たすバランスの取れた総合設計力の構築に時間を費やしている。
―― アプリケーション展開と攻略エリアについて。
石黒 これまでの主力は6軸センサーだが、今後をにらんでは、MEMSマイクロフォンと超音波を利用したフィンガープリント(指紋)センサーをメーンアプリとし、バランスの取れた設計力を急ピッチで構築する。北米製スマホに加え、韓国および中国製スマホへの搭載を積極的に仕掛けていく。
―― センサー事業に関する業績計画は。
石黒 同事業は20年度に黒字化に持ち込み、単独売上高2000億円を21年度に達成する予定だ。
―― そのほか期待の事業部門は。
石黒 TDKは懐が深い会社で、メーンの電子部品事業以外にも、必ず第2、第3の事業が台頭する。かつて一世を風靡した音楽カセットなどのテープ事業も、実は本流の事業部隊ではなかった。このテープ事業に匹敵しそうな予感を漂わせているのが電池事業だ。
―― 17年11月にSMD(表面実装)型の全固体電池を発表しました。
石黒 これこそ顧客ニーズをしっかりと取り込み、顧客とともに成長させたいと願い、半完成品状態で早めに公表に踏み切った。様々なデバイスとの組み合わせが期待される。エナジーハーベストとの組み合わせも興味深い。それだけではなく、通信系やセンサーなどとのニューコンビネーション誕生が期待できる。
―― バッテリー開発は重要課題ですね。
石黒 IoT電源として、まずは電池交換業務からの解放に取り組んでいきたい。そのためのプロジェクトをすでに始動しており、自社内のみならず、他社とのタイアップも進行中だ。電池以外では、ハードディスクドライブ(HDD)の好況再来も期待できる。超大容量化にターゲットを絞ると、フラッシュメモリーはもはや競合ではない。また、サーベイランス(調査監視)市場ではHDDがストレージとして有効に機能することになる。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉/松下晋司記者)
(本紙2019年4月18日号1面 掲載)