「LPWAという通信方式は、IoT対応の大きな主役にのし上がってきた。ZETA技術はすでにスマートシティ、スマートビルディング、スマート検針などで広く利用されているが、さらに付加価値の高い2.0版に発展してきた。日中を基軸とするZETAアライアンスのメンバーも急拡大し、すでに約100社が加盟している」
力強くこう語るのは、ZETAアライアンスを強烈に進める(株)テクサー(東京都港区芝2-5-19 ITOビル5F、Tel.03-6803-4317)の代表取締役社長である朱強氏である。朱氏はかつて富士通でシステムLSI設計に多く関わったエンジニアである。希代の日本通としても知られる人だ。IoT時代におけるセンサー開発を基軸において創業したが、ZETAアライアンスの運動を進める人物の一人でもある。
周知のように、通信ネットワークにおけるLPWA(Low Power Wide Area)は、圧倒的な低価格が売り物であり、コイン電池で10年の稼働が可能という低消費電力も売りとなっている。また、クイックスタートもできる。調査会社のIHSマークイットによれば、LPWAは2021年まで200%成長となり、その時点で接続数は10億以上に急拡大するという。とりわけ中国における成長が目覚ましい。
「テクサーはZETAアライアンスの立ち上げを全力でサポートしている。2019年3月には、日本郵船グループの中国における100%子会社であるYusen Logisticsと、ZETAを推進するZiFiSenseが戦略的な提携契約を締結した。これによりスマート物流の新時代が切り拓かれるだろう。中国における航空、海上輸送、陸上輸送、そしてあらゆる物流の現場でセンサータグ技術が使われ、多くの通信インフラを革新していくことにある」(朱社長)
ZETAアライアンスについては日本企業の51社が加盟している。この理事には、朱社長のほかにマクセル、凸版印刷、ITアクセス、QTnetの各理事が名を連ねている。プロモーターとしては旭化成エレクトロニクス、伊藤忠都市開発、アイテック阪急阪神、エネコム、ソシオネクスト、プロスペックAZなどがおり、アダプターとしてはパシフィックコンサルタンツ、大日本印刷、NEC通信システム、ACCESS、日本特殊陶業、東急テクノシステム、OPTAGE、マイクロサミット、日本アンテナ、STNet、シリコンテクノロジーなどの有力各社がすでに参画している。東京大学、大阪府立大学、佐賀大学なども協力をしている。
一方、中国におけるZETAアライアンスの創立企業にはチャイナタワー、JLL、UNICMICRO、Inspur、そしてYusen Logisticsなど48社が参画しており、日中合わせて約100社がZETAアライアンスという運動論に賛同し、事業展開していくことを決めている。
ちなみに、チャイナタワーは携帯電話の基地局の建設・管理・運営を実施する会社であり、現在中国全土で190万タワーを管理し、世界一のタワーカンパニーとなっている。JLLは世界トップのオフィスビルの管理会社であり、現在80カ国で9万人の従業員を擁している。Inspurもまた中国の名門IT企業であり、世界100カ国以上にIT製品とサービスを提供している。そして前記のYusen Logisticsは世界トップ10に入る国際物流企業であり、中国では23支社があり、本部は上海にある。
「ZETAアライアンスが今後急拡大していくことは間違いない。何しろ、ZETAを開発したZiFiSenseが先進的な電池技術を持つZinergyUK社と開発した通信モジュールZETagが素晴らしい。ここには紙やフィルムなどに亜鉛物質を印刷して作る薄くて軽いバッテリーが搭載されており、厚さはわずか3mmだ。量産すれば価格は1個100円以下になる。バッテリー部分のコストは単価10円になる。通信距離数kmで使い捨てできるハードデバイスを作ったことが何よりも大きい。このデバイス製造は凸版印刷が中心になって立ち上げてきた」(朱社長)
2019年4月19日には上海のホテルでZETAチャイナアライアンス設立大会が開催されるが、朱社長はこの総合司会を任されている。朱氏が率いるテクサー社は、ZETAの日本国総代理店であると同時に、中国に向けての日本製通信モジュールの総代理店という位置づけにもある。つまり、日中の懸け橋となっているのだ。朱社長は様々な障壁がありながらも、何よりも大切なことは日中が固い絆で結ばれて、ZETAアライアンスを拡大していくことだという。
「テクサーの使命は、今後も画期的なセンサーや通信モジュールを作り上げていくことをサポートすることだ。メードインジャパンであれば、世界はその品質をすべて信用する。これを武器にテクサーは、タイ、シンガポールなど東南アジア、さらにはアメリカ、ヨーロッパまで足を延ばしてZETAのグローバル化を図っていきたいと切に思っている」(朱社長)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。