電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第328回

唐津は国際的コスメティッククラスター実現に全力


~美容/健康/素材/交流の産業集積が急ピッチで進む~

2019/3/29

 「コスメティック分野の世界市場はおそらく40兆円以上になっている。一番伸びているのは日本を除くアジア市場であり、この10年間で何と220%も成長した。ただし日本はすでにコスメ大国になっており、3兆円くらいの市場を構築している。重要なことは日本がアジア向けのコスメの製造拠点/情報発信拠点を担うことであり、いわばアジア版コスメティックバレーをこの唐津、ひいては北部九州に構築していくことが求められているのだ」

 こう語るのは一般社団法人ジャパン・コスメティックセンター事務局次長の八島大三氏である。八島氏は唐津市役所との兼業でこの要職を務めておられる方であり、かつて古代には日本の玄関口であった唐津が再び世界に発信する基地となることを熱く語っているのだ。

 唐津市は、フランスにある世界最大の化粧品産業集積地「コスメティックバレー」との間で、経済関係の強化を目的とした連携協定をすでに締結している。フランスのコスメティックバレーには800企業が集積し、7万人の雇用を創出し、製品出荷額2兆3400億円というスケールを誇っている。大学7校、200の研究機関が協力し、94の研究開発プロジェクトを推進し、800人の研究者が働いているという。

 唐津市はアジア市場向けの製造拠点づくりを担う構想を固め、2013年11月にジャパン・コスメティックセンター(佐賀県唐津市南城内1-1 大手口センタービル4F)を設立し、本格的な取り組みを開始した。当面は年間150億円規模の化粧品輸出拠点を目指すという。

 「ジャパン・コスメティックセンターの正会員数はすでに約200を数えている。地元の久光製薬をはじめ、小林製薬、アルビオン化粧品、マンダムなどそうそうたるメンバーが会員として名を連ねている。正会員のエリア別内訳をみれば佐賀が75社で39%を占めるが、見逃せないことは関東が61社もおり、31%となっていることで、言わば全国展開の布石が整ってきた」(八島氏)

 国際取引という点でもすでに実績が出始めている。総合美容商社の安永(佐賀県小城市)は、フランスの大手化粧品メーカーであるスキンハプティクスが製造する妊婦向け化粧品の日本での独占販売契約を締結している。また、イタリアの化粧品コンサルティング会社を経由してEU市場にスキンケア商品の輸出が実現している。化粧品の検査、分析においては、唐津地元のブルーム社と海外有力検査会社と業務提携することで、その地歩を固めている。輸出実績としては、これまでアジア市場を中心に、14社22件の成果が出ている。経済産業省もこの唐津コスメティック構想を支援しており、「フランスをはじめ、世界に流通する商品開発・輸出」に対し期待を寄せている。

 唐津における地域資源の活用も強化されてきた。地産素材から化粧品原料サンプルを製造していくのだ。これまでに素材60品目以上の機能性評価などを行い、10品目が原料規格化された。唐津地域産の植物から抽出したエキスなどがメーカーの商品開発に採用され、19年3月現在、21社が64の商品を開発・販売している。佐賀大学が生産者と研究開発した国産グレープフルーツ、唐津地元のミネラル農園産の無農薬レモン、JAからつのからつ茶、地元酒蔵の酒粕などの素材が化粧品づくりに大活躍しているのだ。

 「最近では男性も化粧品を使うようになってきました。女性にとっても、いつまでも若々しくみせる化粧品の開発は重要なことなのです。唐津が始めたこのコスメティック構想は、今や国内外にかなり知られてきました。18年度は、市内への工場進出が2件実現しています。国内の企業誘致や対日投資のプロモーションもさらに強化されていきます」

ジャパン・コスメティックセンターのスタッフ(中央は八島大三氏、右は田原美穂氏)
ジャパン・コスメティックセンターのスタッフ
(中央は八島大三氏、右は田原美穂氏)
 こう語るのは、ジャパン・コスメティックセンターでコーディネーターを務める田原美穂氏である。田原氏によれば、日本人の国民性はモノづくりの品質に対するこだわりが非常に強いという。しかし、世界における化粧品でもっとも勝っている国はフランスであり、ブランド力は抜群に強い。そしてまた、アジアで最も勝っているのは、プロモーションに強い韓国なのである。しかしながら、安全、安心な材料を使い、品質をブランドと思わせる戦略を推進すれば、必ずや日本の化粧品は世界ブランドになっていくとも主張する。すでに資生堂のTSUBAKIはアジアを中心にブランドになりつつあり、今後の展開によっては、日本こそがコスメティック大国になる可能性も充分にあると言えるだろう。

 今後の展開としては、唐津にインキュベーションセンターをつくることと、ビジネススクールを開設し、人材育成を進めていく構えだ。そしてまた何よりも、国内外から唐津に注目が集まるための「情報交流発信拠点」の整備、アンカーとなる大型の化粧品事業所の進出立地、また関連する原料や資材工場を誘致することがもっとも重要であると言えるのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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