富士通グループは1969年から半世紀にわたって半導体メモリー製品を提供し続けてきた。現在は富士通セミコンダクター(株)(横浜市港北区新横浜2-100-45、Tel.045-755-7000)が高品質・高信頼性の不揮発性メモリー「FRAM」を中心に、各種メモリーとそのソリューションとなるLSIを提供している。FRAMはサイプレスと市場を二分するといわれるほどの強みを持ち、最近では次世代自動車向けの製品開発に全力を挙げている。またカーボンナノチューブを使った不揮発性メモリー「NRAM」では世界に最先行する開発を進めている。富士通セミコンダクターのシステムメモリカンパニー デバイス技術統括部でメモリ開発部のトップを務める齋藤仁部長に話を伺った。
―― 新潟のご出身ですね。
齋藤 新潟県新発田市で生まれ、県立新発田高校を出て東京農工大学で電気工学を学んだ。卒論は「光コンピューターデバイスの研究」。中学の頃に富士通が新たなDRAMを開発するという新聞記事を読んで、必ず富士通に入社しメモリーの世界ステージで戦うと決意した。90年に入社したが、残念なことに2001年12月に富士通はDRAM撤退を決めてしまう。そこで次世代の不揮発性メモリーであるFRAMを必ず作り上げてみせるとの意欲に燃えた。
―― 様々なメモリープロセスを経験されます。
齋藤 入社してすぐ川崎工場でDRAMプロセスの開発に従事し、その後三重工場に移り、製造プロセスを立ち上げ、試作から量産までを手がけた。NANDフラッシュメモリーを開発し、その後岩手工場に移り、デザインルール0.35μmの第1世代FRAMを本格的に立ち上げる。さらにはフラッシュメモリー混載のFPGAの開発にも踏み込んでいく。12年には三重工場のFRAMプロセス部長となり、180nmのスタックFRAMを開発した。
―― 現状におけるFRAMの強さについて。
齋藤 富士通のFRAM製品ファミリーは2系統に分けられる。SOPやTSOPなどのパッケージ製品で提供している単体メモリーがまずある。また、FRAMを搭載したRFID用LSIや認証用LSIなどのFRAM搭載LSIの製品群を持っている。すなわち単体での提供にとどまらず、お客様のアプリーケーションの優位性や性能を最大限に引き出すためのカスタマイズ化したLSIも作れるわけで、これが最大の強みだ。最近ではバッテリーレス、暗号レスなどのLSIチップも発表している。
―― 注目の製品は。
齋藤 125℃の高温環境でも動作を保証する128Kビットおよび256Kビットの単体FRAMを市場投入している。自動車のドライブレコーダー、緊急事故通報システム、EV向けのバッテリーマネジメント、カーナビ、タイヤ空気圧監視などに最適な製品といえるだろう。また、このFRAMは産業機械、ロータリーエンコーダー、ロボットのアームなどにも十分使える製品として注目を浴びている。ちなみに、マイナス55℃という極寒地域でも十分に作動する64K FRAMも作り上げている。
―― SRAMと置き換え可能な4MビットクワッドSPIFRAMも注目されます。
齋藤 これは、SRAMをFRAMに置き換えることでバッテリー削減が可能となり、部品コストを下げメンテナンスコストも減らすことができる。またSPIインターフェースのEEPROMと置き換えが可能な2MビットFRAMも書き換え保証回数が10兆回となり、しかも高速書き込みを実現するものとして認知され始めた。これは私自身がやった仕事であり、180nmプロセスで0.5μm²のセルサイズで、180nmプロセス初期と比較して20分の1のサイズを実現した。
―― 今後のFRAMラインアップについて。
齋藤 やはり車載向けの拡大が第一に挙げられるだろう。EV、ハイブリッド、燃料電池車などの次世代エコカーに対応していく。また自動走行運転などもにらんだ開発を進めていくことになるだろう。FRAMは自動走行において、センサーから来た画像情報のバッファーメモリーに最適と思っている。エンジンを切ってもデータ保存できるからだ。もちろん、ドローン、船舶などのレコーダー、各種ロボット、医療用モニターなど、連続的にデータを書き換えする用途にはFRAMが採用されるケースが増えてくる。
―― カーボンナノチューブメモリーについて。
齋藤 NRAMの商品化開発を発表しているのは、今のところ富士通ただ1社だといってよいだろう。低電圧化するところが技術的には難しいが、克服していくつもりだ。Mビット~Gビットまでを視野に入れた開発に全力投球の構えだ。高速動作、高温動作では他の不揮発性メモリーに対して大きなポテンシャルを持っており、今後に期待している。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
(本紙2019年3月28日号1面 掲載)