電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第313回

inaho(株) CEO 菱木豊氏


ロボットとAIで野菜を自動収穫
5月からサービスを開始予定

2019/3/1

inaho(株) CEO 菱木豊氏
 inaho(株)(神奈川県鎌倉市材木座4-10-14、Tel.0467-37-5279)は、野菜の自動収穫ロボットを軸とした農業プラットフォームの開発を進めるベンチャー企業。人の判断が必要な農作業をAIとロボティクスで代替する取り組みを進めており、まずは収穫サービスの本格提供を5月から開始する予定だ。これまでの取り組みなどについてCEOの菱木豊氏に伺った。

―― 貴社の設立経緯について。
 菱木 もともと私がAIの勉強をしていたなか、Blue River Technology(米カリフォルニア州)という企業が開発しているAIを使ったレタスを間引くロボットのことを知り、農業向けのロボットに興味を持ったのが始まりだ。その後、農家の方へのヒアリングを重ねたところ、雑草の除去を自動化してほしいという声を多く聞き、2015年ごろから仲間を募り開発を開始した。
 その後、雑草の除去作業以上に野菜の収穫作業の負担が大きく、自動化ニーズが高いことが分かり、深層学習技術とロボットアームを組み合わせて野菜の収穫を自動化するロボットの開発に着手した。そして本格的な事業化を目指して17年に設立したのが当社inahoだ。

―― 野菜の自動収穫ロボットについて。
アスパラガスを自動で収穫
アスパラガスを自動で収穫
 菱木 クローラー型の移動体にロボットアームを融合したもので、ビニールハウス内を巡回移動して、センサーで収穫物を認識。そしてロボットアームで野菜を収穫しカゴの中に入れるという動作が基本だ。設立からこれまでは圃場での実証を重ねながらハードの改良やデータの収集を進め、現在、アスパラガスの収穫率は85%以上になった。キュウリの収穫についても合わせて取り組んでいる。ロボットはロバスト性が高く、外乱光の影響が強い日中でも高い作業効率を実現でき、既存の圃場に大規模な工事などをしなくてもそのまま導入できる。加えて、1台で複数の野菜に対応していくことで、年間を通じて高い稼働率を実現できることなどが特徴だ。

―― 直近の取り組みは。
 菱木 19年1月に佐賀県鹿島市でオフィスを開設した。鹿島市近辺には、全国でも有数の反収を誇るキュウリ農家や全国トップクラスのアスパラガスの生産量を誇る農家があり、日本有数の施設栽培のメッカとなっている。その日本でも屈指の農業技術と、野菜の自動収穫ロボットを組み合わせることで、世界でも最先端の農作業システムを構築することを目指す。

―― 事業モデルならびに開発面の取り組みは。
 菱木 事業モデルとしては、ロボットの初期導入費用を無料にし、収穫量に対して一定の手数料をいただくようなかたちを考えている。サービスは5月から開始する予定だ。また開発面では、収穫できる対象物をトマトやピーマン、ナスなどにも広げていきたい。

―― ロボットに搭載する距離画像センサーについて。
 菱木 現在、市場にあるセンサーは遠方物体の認識に強みを持つ製品が多い。しかし、作物の収穫では近距離を広角に測距することが求められる。そういった性能を持つセンサーは市場に少なく、開発における課題の1つとなっている。こうしたセンサーをはじめ、新しいテクノロジーの提案があればぜひお願いしたい。また、今後の本格量産を見据えた際には生産パートナーの拡充も重要なテーマと考えている。

―― 今後の方針を。
 菱木 国内における農家の数は近年減少傾向にあり、新しいなり手も少ない。そのため国内の農家の数は30年には現状の半分になるという予測もある。こういった状況を変えていくためには、ロボットなどのテクノロジーを導入し、農家の方の作業負担を低減することが必須であり、当社もその一翼を担っていきたい。事業面では、22年までに累計で8000台のロボットを出荷・運用すること目指しており、日本だけでなく、米国、欧州、豪州など海外展開も視野に入れていきたい。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2019年2月28日号9面 掲載)

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