アルプス電気(株)とアルパイン(株)は、2019年1月1日付で経営統合を完了し、新会社「アルプスアルパイン(株)」としてスタートを切った。目指すべき姿は「T型」企業。T字の縦方向は要素技術の深耕、横方向はシステム技術の広範化を意味する。この専門性と幅広い知見を融合させたT型企業となり、提案型ビジネスを展開していく。具体的には、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)、センサー、コネクティビティーというコア技術をさらに深耕した電子部品・メカトロ部品などのデバイスに、横方向のソフトウエアを組み込んだシステム・インテグレーションを戦略製品と位置づける。また、IoT関連システムの提供のみならず、サービス領域にまで踏み込む可能性も出てきた。新会社の設立に先立ち、建屋のみで100億円を投じた電子部品のマザー拠点、古川第2工場新棟も18年11月に竣工した。これからの航路をどう描くのか、代表取締役 社長執行役員の栗山年弘氏に伺った。
―― 市況感から。
栗山 18年12月前後から悪化したと思う。スマートフォン(スマホ)に代表されるモバイル情報端末機器は、当初の想定よりも減産になった。年率数%の伸びで右肩上がりを継続していた車載市場も5~6%ダウンしそうだ。この背景には米中貿易摩擦がある。クルマの最大市場である中国が冷え込み始め、米国もセダン型を中心に成長が鈍化傾向にある。さらには英国のEU離脱を要因に、関税の混乱も勃発しそうだ。消費者マインドの冷え込みを危惧している。
―― 電子部品業界にとってこの市況感は。
栗山 今後を推測すると不透明感が漂う。日本国内は東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、活気に満ちている。建設業界やホテル業界など、国内市場を核にビジネスを展開する業界に現状、心配はないだろう。しかし、電子部品業界はほとんどがグローバル企業であり海外市場向けビジネスが多いため、懸念は募る。
―― 今回の経営統合に与える影響は。
栗山 長期的視点では心配していない。クルマにおけるADAS(先進運転支援システム)の進化とその延長線上に位置する自動運転、そしてIoTビジネスの普及、さらにはそれらを包括する5G(第5世代移動通信システム)の到来など、すべての領域において、電子部品は搭載数の増大とともに、必要不可欠な電子デバイスとなる。
―― その電子部品市場に向けた経営方針について。
栗山 T型企業を目指していく。旧アルプス電気とアルパイン、それぞれの強み・専門性を示唆するI型を組み合わせたT型企業だ。
縦方向のIでは、旧アルプス電気の要素技術を深耕するとともに、旧アルパインのソフトウエアを組み込んだ機能デバイスに仕上げ、これまで以上に製品力を高めていく。お客様は、車載で表現すればティア2やティア3が対象となる。
一方、横方向のIは旧アルパインの進化の方向性。お客様はティア1となる。したがって、スイッチやセンサーなど、各種電子部品を単体で提供することもあれば、モジュールでも提供する。さらにIoT市場などはデバイス、モジュールの展開だけでなく、システムでの提供もある。顧客ニーズをしっかり汲み取り、お客様のレイヤーごとに応えるのが新会社のミッションである。
―― 事業の主軸は車載分野になるのですか。
栗山 車載市場はアルプスアルパイン売上高の70%、アルプス物流も加えた連結では65%を占める。確かに、攻略していく市場の軸足はスマホから車載に移ったが、車載市場のみに絞り込むことはしない。市場は生き物。クルマもシェアリングが普及すると、製造業からサービス業に変化する。車載に注力しつつも、コンシューマー分野やインダストリー分野も見据えた全方位で展開する。
―― 宮城県に電子部品のマザー拠点、古川第2工場新棟を竣工されました。
栗山 当社のモノづくり拠点は東北域。既存工場が築50年を経て老朽化の波が押し寄せてきたこともあり、次の50年を見据えて再編に着手する。その第1弾が古川第2工場新棟の位置づけ。古川地区では、工場は物流を考慮し、インターチェンジ近くの古川第2工場に、研究開発は新幹線の駅前に位置する古川工場の古川開発センターに集約する。今回、古川工場が保有していた一部生産機能を新工場に移転。今後、跡地を有効利用し、古川開発センターもさらに充実させる方針だ。
―― 新会社となったことによるシナジー効果は19年度業績にどのように貢献するのでしょうか。
栗山 直近の売上高など、数字への具体的な寄与はないと考えている。車載は3年先までは売上規模が見えている。現在、4~5年先を見据え、お客様と共同開発を推進中だ。ただ、顧客から見た場合、T型企業を目指すことで、1つの会社、1つの窓口になり、スピード感を持って顧客ニーズに応えることができる。
―― では統合初年度、逆にやるべきこととは。
栗山 社員の意識改革だろう。経営統合で社員を不安にさせてはならない。しかし、社員一人ひとりがこの変化をチャンスと捉え、意識と行動を変えなければならない。新年の朝礼で将来に向けたビジョンを示し、経営統合の意味合いを説明した。端的に表現すると、もはや親会社のアルプス電気、子会社のアルパインではない。運命共同体としてのアルプスアルパインの一員であると、意識を切り替えることである。
―― 今後、貴社の強みとなる戦略デバイスは。
栗山 やはり、人と機械とをつなぐHMIの領域だ。スイッチに加え、タッチやジェスチャー、あるいは音声入力など、様々なアプローチを試みている。
―― 海外メーカーなど競合との製品差異化は。
栗山 従前述べたとおりメカトロ部品やハード部品だけでなく、これら電子部品群にソフトウエアを組み込み、ファンクショナルデバイスとして付加価値化を高めていく。もちろん、旧アルパインが持つシステム寄りのソフトウエアも有効に利用する考えだ。
―― ハードとソフト両面の人材確保について。
栗山 魅力ある企業体質を構築しないと、人材は集まらない。このため、当社ではすでに数年前から働き方改革に取り組んでいる。社員全員に対して、残業時間の低減を推奨。働き甲斐のある職場環境の提供とともに、テレワークの導入も積極的に推進している。また、女性の採用も強力に推進。将来、家庭を持っても仕事が継続できるよう、古川工場敷地内に保育所を設置し、4月に開所予定だ。現在、女性と海外留学生の採用を2桁台にまで押し上げてきた。さらに海外での開発力強化に向けて、韓国や中国などでエンジニアの採用も強化する方針だ。
―― M&Aについて。
栗山 現在、M&Aに関する具体的な話はない。ただし、設備投資やM&A費用も含め、18~20年度までの3年間で総額2000億円を投じる計画だ。時代は変わった。すべてを自社でまかなうビジネスはもはや成立しない。パートナーの時代が到来した。M&Aやアライアンスなど、積極的に検討していく。
―― 攻略アプリケーション領域はどのように設定されていますか。
栗山 重点3市場は、車載、情報通信機器、そしてIoTを主軸に構築される産業機器分野だ。モバイル端末はビジネスサイクルが速く、1年単位で好不況が分かれる。車載は共同開発期間が3~5年で、その延長線上に市場がある。この2つの市場と比較し、規模拡大の進行が遅く、最も時間を費やすのが産機分野だが、この領域でも着実に成果が出始めている。
戦略デバイスは、ゲートウエイ周りのIoTモジュール。LPWA(省電力広域)無線技術、センサー群、ファームウエアを取り込み、モジュール構成で提供する。旧アルパインはシステム機器の提供のみならず、サービス領域にまで触手を伸ばす可能性が出てきた。
(聞き手・編集長 津村明宏/松下晋司記者)
(本紙2019年2月21日号1面 掲載)