最近、日本の報道で「春節」について取り上げる機会が増えてきている。いわゆる旧正月にあたる春節は、中国では重要な祝祭日で、2019年は2月5日にあたる。中国では春節の前後7日間の連休に休暇を取る人が多く、重要な観光シーズンとなっているのだ。もちろん、日本を訪れる中国人観光客もこの時期に増加する。今や、訪日中国人などのインバウンド消費が欠かせないものとなっている国内の観光・宿泊・小売業にとって、春節は大きなイベントの様相を呈している。
最近、この春節の活況を間近で体験する機会があった。春節前後の連休期間中に、東京国立博物館で開催された「顔真卿 王羲之を超えた名筆」展に足を運んだ。展示会のメーンとなっている顔真卿は、中国・唐の時代の政治家・書道家であり、中国では有名な歴史上の人物だ。特に、現在台湾で保存されており、普段はほとんど公開されない「祭姪文稿」が公開されることから、普段書道などにあまり馴染みのない人の間でも注目されており、中国ではSNSを通じて大きな話題となっていた。
実際に行ってみると、まず印象深かったのは中国人観光客の多さだ。東京国立博物館はインバウンドにも人気が高い観光地の上野公園内にあるが、それでもこれだけの中国人が同館に集まっているのは見たことがない。周囲から聞こえてくる言葉は、日本語よりも中国語のほうが多いほどだ。
展示の目玉となっている「祭姪文稿」は、それを一目見るのに60分以上かかる行列ができるほどだった。筆者が訪れたのは閉館間際の時間で、ピーク時よりも明らかに人は減っているにもかかわらず、多くの人が並び続けていた。筆者も並んで「祭姪文稿」を見てきたが、実際に見ることができた時間はわずか数十秒程度。それでも多くの人は満足した様子で、行列に並ぶことも含めて「体験」を楽しんでいるようだった。
この顔真卿展の盛況は、訪日中国人の行動の変化として見ても興味深い。中国人観光客の消費行動は、かつてのような買い物偏重から、徐々に観光や宿泊、食事といった体験型へシフトしていると、かねて指摘されている。今回の事例は訪日客をターゲットとしたイベントの成功例として意義深いものだ。日本の魅力ある観光資源に加え、こうした観光客の増加期間に合わせたイベントも、今後のインバウンド集客や消費活動では重要になっていくのかもしれない。