電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第319回

世界の電子回路基板の市場は2018年に635億ドルに拡大


~今や中国企業はシェア53%を占有、巨大投資の力技も始まった~

2019/1/25

 毎年恒例の日本電子回路工業会(JPCA)の新年賀詞交歓会に出席させていただいた。2019年1月10日のことである。年明けの世界の株の乱高下、さらには米中貿易戦争の影響などもあり、不透明な年の幕開けの新春パーティーとなった。

 ここ数年の半導体の爆裂的成長を背景にして、電子回路も順調な生産を遂げてきた。かつて日本の電子回路基板(大昔はプリント基板と言っていた)は、技術においても量産においても世界をリードしていたが、最近では中国、台湾、韓国などアジア勢の台頭により、市場シェアそのものが残念ながらそれほど伸びていない。ただし、フレキシブル基板や10層以上の多層板、リジッド基板などの高付加価値タイプについては、今日においても日本がリーダーシップを取っていると言ってよいだろう。

CPCAプレジデント Jin Zhang氏
CPCAプレジデント Jin Zhang氏
 一時期は台湾の基板メーカーの台頭がすさまじかった。しかしてここに来て、中国勢の一気上昇は実に目覚ましいものがある。この新年パーティーには中国電子電路行業協会(CPCA)の代表も参加し、力強い挨拶をされた。中国のお国柄を反映してか、代表は女性であり、名はJin Zhangさんという。彼女はかつて中国の電子回路基板業界は世界的にみて非常に小さなものであったが、最近は世界の成長率を大きく上回る拡大を続けてきたことをしっかりと表明していた。

 「世界の電子回路基板のマーケットは2018年に635億ドルまで拡大した。ここ数年は8%以上の成長を維持している。中国企業の世界シェアはついに53%まで来ており、2019年についても高速の5G通信、インターネット取引の拡大などもあり、必ずや世界の成長率を上回るだろう。日本と中国は切っても切れない関係にあり、お互いに手を取り合って、栄光をつかんでいきましょう」(Jin Zhang氏)

 このような力強い挨拶をされたが、当然のことながら現在争点となっている米中貿易戦争については一言も触れなかった。そればかりではない。会場を歩けばあちらこちらで談笑の渦が巻き起こっているのであるが、トランプ氏の政策や中国経済の低迷に関することは、ほとんど話題になっていなかった。これが日本の奥ゆかしさというものであろう。中国の要人を前にして、きな臭い米中戦争の話をするなどはしたない、という暗黙の了解がその会場にはあったのだ。

 こうした気の配り方を見ていると、外国から来た観光客、つまりインバウンドの人たちがニッポンのおもてなしを絶賛することがよく分かる。できうる限り自分を殺し、相手の望むものを与えるというのが日本流であり、自己主張があまり得意でない日本人にとっては、控え目こそが美徳なのだ。

 それはともかく中国の電子回路基板は、いよいよ得意とする巨大設備投資で圧倒する作戦に出てきた。中国の東山精密製造(DSBJ)傘下にあるFPCメーカー大手のMFLEXは、江蘇省塩城に大規模なFPC生産拠点を構築中だ。実装、LEDパッケージ、液晶・タッチパネル組立などの専用工場も同拠点内に整備する計画だ。MFLEXは、FPC専用工場2棟とアセンブリー工場を建設している。すでに実装ラインが一部稼働しており、今後順次立ち上げる。

 これ以外にも親会社のDSBJ主導でLEDパッケージや液晶・タッチパネルモジュールなど合計5棟の巨大工場群を建設するという。有機ELパネルのモジュール工場を整備するとの見方も浮上している。さらに、1万人の雇用を視野に入れた従業員の宿泊施設や事務棟も建設するという。敷地面積500万m²、総延べ床面積55万m²で、総投資額は何と業界では破格の1000億円にのぼる。今後、中国の端末メーカーにもハイエンドの各種FPCを供給するとみられる。MFLEXは蘇州地区で2工場を運営しており、月産能力は20万m²前後と推定される。

 こうした巨大設備投資で相手を叩きのめすというのは、液晶や太陽電池などにおいて中国勢が使ってきた常套手段だ。それだけに、いかに日中友好の場とも言うべきパーティーであっても、日本企業はひたひたと迫ってくる中国の影に、ある種の怯えを持っているように思えてならなかった。凍り付いた笑いを浮かべながら、それでも中国の賓客を接待する日本人の姿は「うたてしやな。いとあわれ」と言うしかなかったのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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