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第308回

(株)村田製作所 代表取締役 専務執行役員 中島規巨氏


スマホ不振も車載好調続く
21年度に売上高2兆円へ
5Gや車載系の高度化に期待感

2019/1/25

(株)村田製作所 代表取締役 専務執行役員 中島規巨氏
 (株)村田製作所(京都府長岡京市東神足1-10-1、Tel.075-951-9111)は、5G無線通信や自動車の電装化など、新たな市場ニーズに対応していくことでさらなる成長を目指している。市況の不透明感が強まっているものの、差別化により販売を拡大し、安定した成長の持続を目指す。代表取締役専務執行役員でモジュール事業本部長の中島規巨氏に話を聞いた。

―― 2018年度の業績動向と今後の見通しから。
 中島 スマートフォン(スマホ)市場で鈍化懸念が強まっているが、18年内は10月に売り上げのピークを記録し、大きな落ち込みはなかった。19年1~3月はスマホ向けの踊り場になるが、中華圏の春節前にどれだけ作るかが勝負になる。現状では、例年をやや下回ると予想している。一方、自動車や産業機器は例年の季節要因を除くと全体的に好調に推移している。通期では売上高を前年度比18.1%増の1兆6200億円、営業利益を同68.4%増の2750億円と予想している。1月末の第3四半期決算発表時点には見通しがほぼ固まるだろう。

―― 19年の市況をどう見ていますか。
 中島 スマホは5Gサービス開始を前に買い控えの動きも見られ、低迷が続きそうだ。ただし、中国でサブ6GHzのインフラ投資が進んでおり、関連需要の立ち上がりが期待できる。日米のサービス開始は20年後半の見込みだが、ラグビーワールドカップや東京オリンピックなどのイベントでアプリケーションがどれだけ創出されるかがカギになるだろう。自動車は走行安全システム系を中心に、引き続き拡大が見込まれる。車載システムの高度化を背景にECUの搭載数が増加しており、部品需要の伸長が続くだろう。ただ、世界的な景気鈍化懸念もあり、動向を注視している。

―― 積層セラミックコンデンサー(MLCC)の需要高止まりが続いています。
 中島 車載向けMLCCは、電装化の進展によって1台あたり3000~8000個搭載されており、さらに増加していく見通しだ。それに伴い、今後2~3年は逼迫状態が続くと予想している。19年末の竣工を目指して福井や出雲、中国・無錫で新生産棟を建設するなど、国内外の生産拠点で増強投資を行って年率約10%のキャパアップを進めているが、需要の伸びに追随するには厳しさがある。このため、顧客に小型品へのシフトを提案することで、トータルでの能力増を図っている。

―― SAWフィルターは。
 中島 当社は16年に材料などの見直しによって、高Q値を実現した新型SAWフィルター「I・H・P・SAW」を製品化した。従来は、BAWフィルターしか対応できなかった領域がターゲットだ。だが、その後に従来型SAWフィルターでも材料やエピ構造の見直しを行うことにより、フロントエンドモジュールに求められる領域の多くをカバーできるようになった。このため、I・H・P・SAWは、Wi-Fi向けなどのBAWの置き換えとして提供している。
 現状、I・H・P・SAWはセルラー周波数の約10%をカバーしているが、今後はサブ6GHzをはじめとする5G、あるいは高難易度の特定周波数に展開していく。現状ではBAWの複合デバイスが強い領域には進出できていないため、小型化と複合化を進めて対抗していく方針で、さらなる高性能化と小型化、価格競争力強化の2つの方向で取り組んでいく。ハイエンドスマホにおいては、高性能化ニーズは続くが、搭載数はあまり伸びないと考えられる。一方でミドル、ローエンドでは搭載数の拡大が継続するものの、競合する中国メーカーが出てきている。そのため、ミドル、ロー領域ではコスト競争力を高めて対抗する。

―― 車載ではRFモジュールの需要は期待できるでしょうか。
 中島 現状の車載通信は限られた領域であり、民生品で世代遅れになった技術を流用している状態で、大きな伸びは期待できない。本格的な需要の拡大は車車間、路車間の通信が肥大する5Gサービスが開始してからになると想定している。車載用SAWフィルターは民生品向けと基本的に違いはないが、モジュールでは耐熱性、耐衝撃性や信頼性などが求められる。このため、車載ニーズに対応できるパッケージング技術の開発を進めている。

―― 樹脂多層基板「メトロサーク」は生産安定化が課題でした。
メトロサークは5Gのキーデバイスとして期待
メトロサークは5Gのキーデバイスとして期待
 中島 主要顧客のハイエンドスマホへの供給が不安定で、収益面の問題になっていた。生産改善の取り組みを進めたことで、品質、コストともに安定化させることができた。18年度第2四半期からは黒字転換できている。主要顧客への対応に専念する状態を脱することができたので、今後は新規顧客の開拓にも取り組む。アンテナや伝送線路などスマホ向けに、高周波特性や薄く、屈曲性を持つなどのメトロサークの特徴を武器に採用拡大を目指す。

■全固体電池を製品化

―― 競合として浮上している変性ポリイミド基板(MPI)への対抗策は。
 中島 高周波特性ではMPIを凌駕しており、差別化要素として訴求していく。例えば、ミリ波帯に対応できるのはメトロサークだけであり、5Gではキーデバイスになると考えている。スマホをはじめ、光通信などインフラ系にも採用拡大が見込める。MPIも今後技術開発により高周波化が進むと予想されるが、メトロサークは1年先行していると考えており、今後もその状態を維持していく。

―― バッテリー事業の収益化見通しは。
 中島 バッテリー事業は、パワーツールや掃除機、園芸器具など向けの円筒形、IoT機器、医療機器、時計など向けのコイン形、モバイル機器向けのラミネートの3種類をラインアップしている。全体の約60%を占める円筒形は需要の増大が続いていることから逼迫しており、生産能力の増強を進めている。コイン形もIoT機器などが伸長し、堅調に推移している。問題は赤字が続くモバイル向けで、生産プロセスの見直しによって収益改善を図っている。また、最新のモバイル機器のニーズに対応するため、電解質をゲル系から液系にシフトさせている。5Gでは瞬間的な高電圧、高電流が求められるが、既存の電池では対応できない。このため、積層構造などの新構造で対応していく。バッテリー事業としては21年度の黒字化を目指していく。

―― 19年度に全固体電池の市場投入を計画しています。
 中島 全固体電池は固体電解質により安全性に優れ、構造やプロセス面でMLCCと親和性がある。ただ、技術的難易度が高く大型化が困難で、大電流を取り出しにくいといった課題がある。そこで当社はまず小さいものから市場に投入し、実績を作りたい考えだ。ウエアラブル向けに製品化を予定している。

―― 21年度までの中期構想を公表しました。
 中島 21年度に売上高2兆円、営業利益率17%以上を目標としている。無線通信は年5~10%程度、自動車は年15~20%程度の成長を見込んでいる。またエネルギーや医療、ヘルスケアの分野も伸ばしたい。M&Aや事業提携も必要に応じて行っていく。

(聞き手・中村剛記者)
(本紙2019年1月24日号1面 掲載)

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