2020年度に売上高3000億円、営業利益率10%以上を目標に快進撃を続ける太陽誘電。目標達成に向け、業績は右肩上がりの軌跡を描き続けている。その原動力となる同社の主力商品が積層セラミックコンデンサー(MLCC)である。長年にわたり、小型化と大容量化を同時並行で推進。その結果、情報通信分野はもとより、車載や産業機器に至るまで、MLCC躍進の勢いが止まらない。また、MLCCの市場拡大と同時に、インダクターや通信デバイスなど部品ビジネスに加え、各種センサー群と通信モジュールや半導体技術などを組み合わせたソリューション提案も加速させ、さらなる成長に向けた新規事業分野の布石を打っている。今後の事業方針と戦略を代表取締役社長の登坂正一氏に伺った。
―― まずは市況感から。
登坂 18年はMLCCの需給逼迫から始まり、非常に活況な1年となった。このMLCCの市場環境のトレンドは20年度まで続くと推測する。
―― なぜMLCCが躍進しているのでしょうか。車載戦略がカギですか。
登坂 ガソリン車、環境対応車を問わず、クルマの電子化はさらに加速する。半導体の搭載が増える以上、デカップリング(LSIへの最適駆動電力の供給とノイズ除去)を担うMLCCの搭載も増加する。また、大容量化ニーズも車載用途で顕著になってくる。かつては静電容量1μFが主流だったが、現状は10~100μF帯へと移行しつつある。小型化と大容量化は、MLCCが進化するために背負う宿命のようなものだ。
―― 5G(第5世代移動通信システム)の到来は戦略構築に影響しますか。
登坂 情報通信機器市場のみならず、車載の戦略においても5G到来は見逃せない。ADAS(先進運転支援システム)の延長線上に位置する自動運転も巻き込むコネクテッドカーの台頭だ。5Gの実現による膨大な情報量とコネクテッドカー、それはデータセンターや基地局などICTインフラ市場の拡大とも深い関係性を持つことになる。
―― 投入するMLCCは。
登坂 大規模なメモリー保持の観点から、クルマ本体に搭載するMLCCよりも1桁上の容量帯だ。車載では10~100μFが主要な容量帯だが、データセンターなどは100μF以上が要求される。今後はさらに330μF、470μFへと大容量化が加速するであろう。その流れに応えるため、18年5月には世界初の静電容量1000μFのMLCCを製品化した。
―― エルナー社を完全子会社化しましたが、手がける導電性高分子ハイブリッドアルミニウム電解コンデンサーの展開は。
登坂 エルナーは以前から車載市場に特化しており、当社の商品と非常に補完性が高い。エルナーの手がける導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは省エネの視点から注目を浴びており、48V系マイルドハイブリッド車用途に積極投入する。とりわけ欧州市場を主軸に展開することになり、48V系ハイブリッド車に対してはエルナー製のコンデンサーが重要な役割を果たすだろう。また、車載のみならず、当社の販売網を活用し、産業機器分野にも投入していく。
―― インダクターの事業戦略について。
登坂 インダクターは電源周りのチョークコイル用途が中心。この用途には大電力化の波が押し寄せており、かつ機器の高効率化実現のため、よりきめ細かい制御が求められている。
―― インダクターの製品投入について。
登坂 当社は、フェライト系のインダクターに加え、金属磁性材料を使用したメタル系パワーインダクター「MCOIL」を商品化している。スマートフォン(スマホ)向けではメタル系の積層型に注力していく考えだ。もちろん車載も手を抜かない。車載市場はフェライト系、メタル系、いずれも巻き線型が主力となるだろう。特に車載向けや産業機器向けでは、高効率・高信頼性を背景にSiCやGaNなど次世代半導体の採用が見込まれ、温度特性などに優れた高信頼なパワーインダクターが必須となる。
―― スマホの今後をどのように読みますか。
登坂 5Gの到来で、今までにないサービスが生まれることも想定される。かつてのような台数成長は期待できないが、IoTのハブとして、スマホが今後も一定の地位を維持するのではないか。
―― スマホの成長が鈍化するなか、通信デバイス需要復活のシナリオは。
登坂 通信デバイスの需要は、5G普及の影響力も大きい。今後、スマホのみならず、IoT関連機器の普及、コネクテッドカーなど通信デバイスを必要とする機器が拡大し、需要も増大する。このため特性改善は不可欠で、高信頼化と小型化が開発テーマとなる。当社の通信デバイスは、独自の封止構造を採用しているところがキーポイント。堅牢性に優れ、車載市場からの評価も高い。また、SAWフィルター、FBARフィルター、積層セラミックフィルターの3つを持っていることも強みだ。これらを組み合わせることで、5G向けの幅広い周波数帯に対応できる商品ラインアップを取り揃えることができる。5G実用化を控え、現在、スマホおよび車載搭載用フィルターの開発を急ピッチで進めている。
―― 国内外の量産体制は。
登坂 玉村工場(群馬県佐波郡)はMLCCのマザー工場で、開発および最先端品の量産を担う。数量が多くなれば、国内は子会社の新潟太陽誘電(新潟県上越市)、海外では韓国と中国およびマレーシアに量産工場を設けている。韓国は電装用の大型・大容量品、中国は小型品、マレーシアは大容量品中心に量産している。
インダクターについては、中之条工場(群馬県吾妻郡)が材料開発や巻き線型の量産を担当。積層型を和歌山太陽誘電(和歌山県日高郡)が、巻き線型を福島太陽誘電(福島県伊達市)が担当している。海外においては中国やフィリピンにも工場を保有している。
通信デバイスは太陽誘電モバイルテクノロジー(東京都青梅市)が開発・量産を担っている。
―― 設備投資計画と投資先は。
登坂 設備投資は、18~20年度の3年間で総額1500億円を投じる計画だ。主な投資先はMLCCで、旺盛な需要に応える量産体制の構築が中心。18年度は新潟太陽誘電の第3号棟が竣工し、19年3月から稼働を開始する予定だ。
―― 受動部品以外の電子デバイス、半導体や各種センサー類などはどのように育成しますか。
登坂 コンデンサーやインダクター、通信デバイスなど“モノ”のビジネスに対し、ソリューションなど“コト”のビジネスを展開する。MLCCを核とする受動部品群は、材料から特性改善を目指し、量産化するモノのビジネス。これに対し、半導体やセンサー類は、ソフトウエアで顧客のニーズにマッチしたシステムを提供して収益を得るコトのビジネスとなる。
―― モノとコトの両面ビジネスによる収益力への期待は。
登坂 20年度までに営業利益率10%以上という目標がある。重要なのは、その水準を安定的にクリアすること。その収益力を維持・持続できる企業体質に変革させることが、その先の成長につながっていくと考える。まだ完全ではないが、実際、スマホの市場動向に左右されにくい体質が備わってきている。
(聞き手・松下晋司記者)
(本紙2019年1月17日号1面 掲載)