2019年がどのような年になるのかは「神のみぞ知る」ところであるが、すべてはあのトラチャンこと米国大統領のトランプ氏がどう動くかにかかっているとはいえるだろう。ひたすら保護主義を打ち出し、米国の利益がすべてと言い放ち、これまで誰もやったことのない「中国攻撃」をしているのであるから、まずもって普通の人ではない。
中国に対する報復関税を100%実行というサプライズな方針を全く取り下げようとしない。そしてまた「知財権防衛」を錦の御旗にして、中国最大のIT企業であるファーウェイのNo.2の女性を逮捕してしまった。さらに加えて、中国の国家プロジェクトである「中国製造2025」に対しても茶々を入れ、これを撤回しろとまで言っているのだ。まさにやりたい放題し放題であり、「ただの女好きのトランプ」と思っていた人たちからはサプライズの目で見られている。
それにしても、ファーウェイが使っている半導体・電子部品・ディスプレーは1兆5000億円もあるといわれ、そのほとんどを輸入に頼っている。他のスマホメーカーやサーバーメーカーも似たようなものであり、米国の知財攻撃が続けば軒並み経営危機に陥るだろう。そしてまた、日米が同時に最先端装置の中国輸出を止めれば、事実上「中国製造2025」は絵に描いた餅になってしまう。
この大騒動は、すでに世界同時株安を呼び込んでおり、2019年の世界経済にとって最大の懸念材料となってきている。頼りは米国議会の下院を支配する民主党がどれだけトランプをブロックできるかであるが、こちらも有力な大統領候補は見当たらず、ひ弱な感じは消えていない。
米中貿易戦争の有り様をずっと観察しているが、「米国は出てきた杭は必ずぶっ叩きに入るのだ」という思いを禁ずることができない。1980年代後半にニッポン半導体が世界トップシェアを押さえ、どうにも止められないほどの勢いにあった時に、米国政府はありえない手に出てくる。それは1986年のことであるが、日本半導体製品のダンピング輸出防止を骨子とする「日米半導体協定」の締結である。1987年には日本製パソコンに対し、報復関税をかけるにまで至っている。
そして、きわめつけは日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に引き上げることを契約条項に強引に盛り込んでしまったことだ。1992年のことである。EUはこの2国間の政府協定をGATT(関税貿易一般協定)違反であるとして、激しく反対していたことをよく覚えている。そしてまた、この協定の矢面に立った強面の女性、ヒルズ氏(USTR代表)のこともよく覚えている。とにかくひたすらに強い女性であり、彼女が机を叩けば日本の政府筋はみな震え上がるほどであった。筆者は「でも、かなりの美人ではあるよね」とひそかに思っていたが、口には出せず、もちろん小心者であるから彼女に近づくこともできなかったのだ。
日本では「おタカさん」が頑張り、
米国ではヒルズ氏が仁王立ち
何のことはない。日本が台頭してくれば日本を叩き、GATT違反の無理やり協定まで作って、日本の成長を阻止する。中国が大躍進してくれば、全力を挙げて中国ぶっ叩きに出て、国の弱体化を図る。米国のやり方はいつもいつもこうなのだ。別にトラチャンだけが異常なのではない。米国外交はこの繰り返しであり、今後も成長してくる国があれば、同じことをやるだろう。
ああああ、それにしても、あの「日米半導体協定」のもたらした結果を考えれば、少しく込み上げてくるものがある。そう、それは、米国の規制を受けない韓国半導体の一大躍進と、米国半導体の華麗なる復活を呼び込んだことである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。