電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第316回

セミコン・ジャパンのVIPパーティーにあった『SHADOW OF YOUR SMILE』


~「米中貿易戦争」「メモリー市況後退」は不安要因となってきた~

2018/12/21

 もしも愛している女の人から「あなたの微笑の中には暗い影が見え隠れするのよね」と言われてしまったら、その男は何と答えるのだろう。「いやあ、そうかい。気のせいだろ」と再び笑いかけてみても、その女性は真っすぐに男の瞳を見つめるだけで、まったく目が笑っていない。「分かっているわ。他の女の人がいるのね」と語っている目にどれだけの男が怯えたことだろう。

 それはともかく、映画の中で歌われた『SHADOW OF YOUR SMILE』とは、何と言い得て妙な表現の詩なのだろう。笑っているけど、そこに不安の影があることを、その短い言葉の中に言い尽くしているからだ。男女関係だけではなく、日常的な会社生活の中でも上司、部下の顔色に気を使えば、この表現があてはまる場面はいくらでもあるだろう。

 さて、2018年12月12日の夜、半導体業界最大のイベントであるセミコン・ジャパンのVIPレセプションパーティに招かれ、会場内に漂う『SHADOW OF YOUR SMILE』にいくつも出会うことになった。中国のファーウェイのNo.2ともいうべき女性が逮捕されたことで、米中貿易戦争は今や出口の見えない冷戦状況に突入した。ファーウェイと取引のある日本の電子デバイスメーカーも数多く、ファーウェイ製品が米国、英国、そして日本から締め出されれば、少なからぬ打撃をこうむることになる。そしてまた、かの米国大統領は、中国本土への最先端半導体製造装置の輸出を禁ずる、とまで言っているのだから、事は穏やかではない。

 「世界の半導体製造装置の35%は日本企業が作っている。そしてまた世界の半導体材料の55%のシェアは日本の材料メーカーが握っている。この日本抜きに世界の半導体産業の発展はありえないのだ」

 力強くパーティーの挨拶でSEMIジャパンの代表である浜島雅彦氏は語った。「全くそのとおり」といった表情で装置・材料メーカーの幹部は皆頷いていたが、「しかしてこれからの半導体市況は決して甘くはないぞ」という表情もそこここに見て取れたのだ。

 次いで挨拶のステージに上ったのは、東芝メモリの成毛康雄社長であり、何としてもIPOを取るとの意思を強く表明された。また、主力とするNANDフラッシュメモリーにおける東芝メモリの世界シェアは20%、しかして東芝四日市工場から出荷する量は世界の35%シェアを持っていると自信のほどを示された。しかしながら、そこには満面の笑みはなかった。

 それはそうだろう。スマホの世界的な伸び悩み、データセンターの建設の遅れなどが影響し、NANDフラッシュメモリーはいよいよ最高に厳しい局面を迎えているからだ。価格はこの1年間で3割以上下がり、在庫は増えている。2019年1~3月期については、サムスンを除き東芝、マイクロン、SK、インテルは赤字を計上するのではないかとの予想も出始めているのだ。

 その後、会場を回り多くの懐かしい方々、今年お世話になった方々にも談笑の時を持たせていただいたが、皆様が時折見せる『SHADOW OF YOUR SMILE』がやはり気にはなっていた。盛況の中にもある種の影が覆っているのだ。しかして、日本を代表する半導体装置メーカーのトップである東京エレクトロンの河合利樹社長の次の談話には救われる思いになった。

セミコンジャパン2018のVIPパーティは盛況(東京エレクトロン河合社長)
セミコンジャパン2018のVIPパーティは盛況
(東京エレクトロン河合社長)
 「ジャーナリスト、アナリストはメモリー市況後退をこれでもか、これでもかと書き続けている。サムスン、東芝、マイクロンに続いてSKまでが設備投資凍結を言い始めた。しかし、私はこう思っている。2020年には5G通信、次世代自動車、ビッグデータなどの増大が確実視され、半導体は一気に上げ潮に乗っていくのは間違いがない。2019年に投資を縮小してしまい、2020年にIoT一気上昇が来た時にはどうするのか。装置が間に合わない。部品が間に合わない。きっちりと投資を継続しなければ、来たるべきIoT革命の一大ウェーブを止めてしまうことになる。半導体に関わるすべての人は、この社会的責任をきっちりと果たしていなかればならない」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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