10月27日、京都・祇園で「南座発祥400年 南座新開場祇園お練り」が開催された。歌舞伎の公演前などに行われる“お練り”だが、今回は約70人もの歌舞伎俳優が参加するとあって、一度見てみたいというミーハーな気持ちで、予定を急遽変更して京都に出向いた。
四条大橋を祇園方面へ歩くと、前に進めないほど大勢の人だかりができている。橋のたもとに差しかかったところで、長らく改修工事で外周を覆われていた「京都四條 南座」が見えてきた。従前の桃山風建築を取り入れた歴史ある外観は健在。改修で綺麗になったことで、より凛々しい姿に感じられた。
人混みをかき分け、祇園の裏路地を通り抜けながら、なんとか見学できる位置までたどりついたが、果たしてここから見えるのだろうか……というほど後ろの方である。この日のお練りは、南座の玄関で式典を行った後、南座から八坂神社までの大通りを練り歩く。筆者が顔を拝めたのは、11月から始まる新開場記念顔見世興行で襲名披露する十代目松本幸四郎さんと、中村七之助さん、招待されていた京都市長のみ。気合を入れて早く来れば良かったと後悔しながらも、これを機会に、いまだに劇場で見たことのない歌舞伎をいつか見に行こうと決心したのである。
近年の娯楽は、テレビ離れが加速し、舞台、ライブ、イベントなどを体感する“コト消費”が増えている。映像文化が始まる前は、南座のような芝居小屋に娯楽を求めて足を運ぶことが主流だったというが、再びかつてのような時代が到来しているのではないだろうか。
なお、「京都四条 南座」の改修工事では店舗区画も全面リニューアルしたようで、「とらや」(和菓子)、「なだ万茶寮」(日本料理)の日本の食の伝統を支える2店が出店した。伝統と新たなコラボレーションをコンセプトに新メニューなどを取り揃え、サービスを提供していくという。南座を訪れた際は是非立ち寄りたい。
一方、11月に通りかかった大阪・道頓堀にある「大阪 松竹座」は、大正時代に建築された日本初の鉄骨鉄筋コンクリートの建物で、映画館として建築されネオルネッサンス様式の正面玄関を今も残す近代劇場だ。南座の歴史とはまた味わいの違う建造物は、いつ見ても歴史を感じ癒される。
松竹座では、11月から劇団新派130年の記念公演が行われている。新派は、歌舞伎の旧派に対する現代劇の一派らしい。記念公演は、あの横溝正史作品で有名な『犬神家の一族』を舞台化したもので、前述の南座お練りに参加していた、中村勘九郎・七之助兄弟の叔母にあたる波乃久里子さんや、尾上松也さんの妹である春本由香さんら豪華な演者が揃っているので興味深い。松竹座地下の飲食街は利用したことがあるが、実際に劇場の中には入ったことがないし、犬神家の一族は大好きな物語なので、残る日程で観劇しよう。
テレビのドラマやネット動画はお手軽な娯楽で良いが、舞台やライブなど実際に体感する方が個人的には面白い。まだ体感したことのない劇場は南座や松竹座のほかにも沢山あるので、色々調べて足を運びたい。そして建物の歴史もそこから感じ取り、日々の記事執筆に活かせたら素敵だ。