電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第307回

1時間に500枚のガラス研磨の品質を目視検査する女性のすごさ


~山形県新庄のアヒコファインテックは電子デバイスの構成部品に注力している~

2018/10/19

 山形県新庄市は最上エリアの中核をなす町である。人口約3万6千人を擁し、農業の町として知られているが、工業事業所も109カ所あり、キラリと光る企業がかなりいるのだ。

 「ユネスコ無形文化遺産となっている新庄まつりは、市民が手作りで行う山車祭りとして知られており、その歴史は260年以上前の江戸中期までさかのぼる。こうした文化遺産を持つ一方で、最近は企業誘致も順調に進んでおり、新庄中核工業団地はここに来てほぼ満杯の状況となっている。しかし5万m²の用地がまだ残っており、ここにIT系企業を誘致したいと考えている。同団地には半導体関連で有名な新庄エレメックス、山形東亜DKKなどが進出している」

 穏やかな口調でこう語るのは、新庄市長の山尾順紀氏である。同氏は県立新庄北高校を卒業し、大正大学仏教学部に進み、新庄市役所で長く働いた。その後、新庄市の市会議員となったが、一方では円満寺住職を務めるお坊様なのである。市長になって3期目を迎えており、2期目は無投票であったというほど圧倒的な市民の支持を勝ち得ている人だ。

 さて、この新庄市に実にユニークな企業がある。それはアヒコファインテックというカンパニーであり、一番初めの創業は昭和20(1945)年の戦時中であったという。ガラスの研磨で頭角を現し、会社として創業したのは1986年となる。その後、87年に第2工場建設(クリーンルーム設置)、第4工場改築(芯取)、88年に第3工場建設(LAP)、89年には第5工場建設(研磨・検査)と立て続けに工場を立ち上げていく。年商は約11億円。事業内容は電子デバイスなどの構成部品となる光学ガラス、石英ガラス、半導体用ガラス基板、産業用特殊ガラスの切断・精密平面研磨加工および蒸着加工をこなしている。

 「カメラ・ビデオカメラのCCDのカバーガラスの研磨では多くの実績を築いた。またガラスハードディスク向けでも強かった。しかして最近では、プロジェクターのカバーガラス基板の研磨加工が売り上げの50%を占めている。取引先は二十数社まで拡大して来ており、1社依存型の体質から変わってきている」

 こう語るのは同社で製品課の統括課長を務める今田氏である。今田氏はカシオ計算機関連の時計や電卓などの製造に携わり、縁あってアヒコファインテックに30年前入社する。この会社はとてもアナログな経営をしてきたけれども、それなりに和の精神が強く、トライする気風にあふれているという。
 「匠の技を持つ人も数多い。また女性力が強いことも特徴だ。従業員約100人のうち半数は女性であり、仕事は丁寧、きっちりとしていて黙々とこなす。驚異的であるのは、品質を確認する検査部門には、すべて目視で1時間500枚を視てしまう女性がいることだ。30年も勤め上げたこの女性こそ、わが社の宝物といえるだろう」

 こう語るのは同社の品質技術課にあって統括課長を務める田中氏である。田中氏もまた中途入社組であり、図面もなく進んでいくやり方には当初驚いたが、最近では方針を文書化し、全従業員に周知徹底し、社外からの求めに応じ公開することができるようになってきたという。

アヒコファインテックの今田課長(右)と田中課長(左)
アヒコファインテックの
今田課長(右)と田中課長(左)
 同社の製造設備の中核を占める両面研磨機は大型が59台、小型が14台を揃えており、真空蒸着機、自動精密洗浄機、スパッタ成膜装置などもラインアップしている。また、解析・検査設備もそれなりのものを揃えているが、品質をしっかりと確認する検査工程では、やはりベテランの女性たちの目視検査がモノを言ってくる。

 「熟練工を目指し、技術を磨き合い、知恵を出し合い、信頼し合い、互いの幸福を目指し、行動するというのがアヒコファインテックの基本的な経営方針だ。常に社内で言われていることは“できる、できる、必ずできる”であり、これからもこの精神でひたすらに戦っていく」(今田課長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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