電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第301回

IR法成立で国内のカジノ始動は様々なインパクト


~23兆円の巨大市場を構築するパチンコには一大打撃となる~

2018/9/7

 カミングアウトしてしまうが、筆者は大のパチンコ好きである。依存症とまではいかないが、正月、GW、夏休みについては、貴重ともいうべき休日のほとんどをパチンコに明け暮れてしまう。最近の台では久方ぶりに出た「冬のソナタ」の最新バージョンがお好みであり、数字が揃い大当たりになると、パチンコ台画面に向かって「オモニー!!」とつい絶叫してしまうのだ。

 それはともかく、かつて30兆円の巨大市場を構築したといわれるパチンコ産業ではあるが、直近の売上高は年間23兆円となっており、明らかにトーンダウンしている。以前は駅前によくあったパチンコ店はかなりの数が潰れている。また地方に行けば、これまた昔からあったパチンコ店が多く潰れている。しかし驚くべきことは、それでもまだ1万店が稼働しているのだ。

 これでお分かりであろう。1店あたりの客数はかなり減少し、店舗数も激減しているなかでまだ23兆円の売り上げがあるということは、1人あたりが使う金額がべらぼうに多くなっているということだ。ずばり言えば、かなり重度のパチンコ依存症の客が急増しているとみるべきなのだ。

 しかも筆者の観察する限り、最近は若い女性客が増え、心なしか脚はだらしなく開き、パチンコの画面をうつろな目で見ており、財布から万札を次々とつぎ込んでもなお平気な顔をしている。「あな、おそろしや」とはこのことだ。

 それはともかく、2018年7月20日にカジノを含めた特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が成立し、いよいよ国内では初めてとなるカジノ建設が始動する。設置エリアは国内3地域であるが、今のところ大阪、和歌山、長崎、北海道がかなり積極的に誘致に動いている。一方で、横浜市、宮崎県はトーンダウンしてきた。東京都と愛知県はほぼ中間ぐらいのポジションにある。

カジノはコンベンション、ホテル、商業施設、遊園地などと一体化する
カジノはコンベンション、ホテル、
商業施設、遊園地などと一体化する
 当面の国内におけるカジノの市場規模は2兆円であり、パチンコの23兆円に比べて10分の1以下にとどまる。また、カジノ設置に伴う経済効果は4兆~5兆円が想定されており、確かに国際観光都市を多く輩出し、インバウンド急増をさらに進める我が国としては、カジノはやはり重要な施設と言えないこともない。

 しかし問題となるのは、やはりギャンブル依存症、さらには治安の悪化などであろう。とりわけカジノで使える金額がほぼ無制限であれば、とんでもないことになる。筆者も時々やることではあるが、朝の10時から夜の10時までパチンコを打ったとしても、まず15万円以上使うことはない。ところが、カジノの場合は50万円、100万円を一瞬ですってしまうことは日常茶飯事だ。

 小切手さえ切れば、無制限ではないとしても、膨大な額を張ることができるという恐ろしさがカジノにはある。ただですらパチンコを筆頭に競輪、競馬、競艇、オートレースなど世界に冠たるギャンブル王国ともいうべきこの国にカジノが次々とできれば、全国が賭場ばかりの日本列島になってしまう。いやはや考えものではあるのだ。

 それにしてもパチンコの台数激減はこれに関わる半導体メーカー、電子部品メーカー、ソフトウエア産業にかなりのマイナスインパクトを与えている。しかし一方でカジノが始動しても、そこに使われるエレクトロニクスにそれなりの半導体や電子部品が使われようが、筆者が見る限りそれはスモールインパクトなのだ。今や3D画面も駆使するパチンコ台が消費するディスプレーや半導体の市場はかなりのものがあり、カジノがこれを凌ぐことはまずありえない、とだけは言っておこう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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