電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第289回

東芝デバイス&ストレージ(株) HDD技師長 伊藤淳氏


14TBの新型ニアライン投入
アシスト記録で18~20TB実現

2018/9/7

東芝デバイス&ストレージ(株) HDD技師長 伊藤淳氏
 HDD(ハードディスク装置)の高密度&大容量化が加速している。PMR(垂直磁気記録方式)を採用した現在のHDDは、平方インチあたりの記録密度が1テラビット前後に達しているが、PMRによる高密度化も限界が近づいている。次世代技術として注目されているのがMAMR(マイクロ波アシスト記録方式)およびHAMR(熱アシスト記録方式)で、東芝デバイス&ストレージ(株)もMAMRによる大容量HDDの市場投入を計画している。HDD技師長の伊藤淳氏に話を聞いた。

―― 2017年末に、14TB(テラバイト)の大容量HDDを市場投入しました。
 伊藤 東芝は1967年にHDD市場に参入して以来、長年モバイル向けを中心としたクライアントHDDを供給してきた。05年には世界で初めてPMRを商品化し、09年に富士通のHDD事業と統合したことで、データセンター向けニアラインHDDの開発を開始した。これまで6世代にわたるニアラインHDDを提供してきたが、ニアラインHDDのシェア拡大を図る戦略製品として、14TBの新型ニアラインHDDを開発した。

―― 新型ニアラインHDDの特徴は。
 伊藤 14TBの記録容量は業界最大規模で、この大容量化を実現しているのがヘリウム充填と高密度実装技術である。ヘリウム充填HDDは内部の風乱が抑制できるため、高密度化や低消費電力が可能になる。独自開発のレーザー溶接技術で高い密閉性を実現した。使用するディスク(記録媒体)は業界最多の9枚で、これを高さ26.1mmの筐体に収めている。ディスクの厚さはわずか0.635mmで、高密度実装と前製品と同等の耐衝撃性を両立している。

―― PMRを補完する技術としてSMR(瓦記録技術)が提案されています。
 伊藤 従来のHDDはディスク上のトラックピッチを小さくすることで高密度化を実現してきたが、SMRはバンドと呼ぶ数百本のトラックを1つの単位として書き込むことにより、書込み時に隣のトラックに与えるダメージを最小化して、さらにトラックピッチを詰めることができる。ちなみに、14TBの新型ニアラインHDDは、SMRを採用せず大容量化を実現している。

―― ポストPMRとして、アシスト記録技術の開発が進んでいます。
 伊藤 HDDはPMRの登場で記録密度が大幅に向上したが、SMRを併用しても限界がある。この壁を乗り越える技術がMAMRとHAMRだ。MAMRはマイクロ波、HAMRはレーザーを使用するが、いずれも情報を書き込むときに磁性層へ照射し、一時的に材料の保磁力を下げて書き込みを容易にする技術である。

―― 商品化のスケジュールは。
 伊藤 東芝はMAMR、HAMRの両方の技術を開発しているが、まずはMAMRの早期サンプル出荷を目指している。18年度末にPMRとTDMR(2次元記録技術)の併用で16TBを実現し、次世代HDDとしてMAMRによる18~20TBの大容量化を見込んでいる。

(聞き手・松永新吾記者)
(本紙2018年9月6日号10面 掲載)

サイト内検索