「あれだけ太鼓を叩き、鐘を鳴らし、ひたすら太陽電池でCO2削減を言っていた国があっという間に失速する。すなわち、2018年6月に中国政府は太陽電池補助金枠の大幅削減を打ち出し、これを契機に現在世界の80%を押さえている中国の太陽電池のシェアは今後急落の様相を呈するだろう」
ギョロリとした眼で辺りを見渡すかのようにこう語るのは、電子デバイス産業新聞 上海支局長の任にある黒政典善である。2018年7月13日に上海で開催されたカンファレンスにおける席上のことだった。ちなみに筆者もこのカンファレンスでは90分のスピーチをさせていただき、中国で活躍する人たちとの良き交流の場になったと思っている。
さて、太陽電池モジュールの世界マーケットは、中国のジンコソーラーが2017年段階で9.7GWを出荷し、世界トップの地位にある。同じく中国のトリナソーラーが僅差の2位にあり9.1GW。3位もまた中国でありJAソーラーで7.5GW、4位も中国籍となってしまったカナディアンソーラー。5位になってやっと韓国のハンファQセルズが5.4GWで顔を出す。要するに世界ランキング第1位から第12位までに中国メーカー10社がランキング入りするというすさまじさなのだ。
2017年の世界の太陽電池導入量は100GWであり、4年前の42GWから倍増以上まで伸びてきた。もちろんこれを引っ張っていったのは中国勢である。そしてこれを支えたのは、中国政府によるすさまじい補助金のばらまきであった。
「ここにきて国家発展改革委員会は、太陽電池補助金の引き締め政策を発表している。6月1日のことである。とりわけ中央政府の財源の使用については、ほとんどゼロベースというほど厳格に規制を加えた。分散式発電については、10GW規模の建設奨励をしてきたが、これも制限する。脱貧困のための太陽電池であれば支持する。それにしても補助金の財源不足が目立ってきた」(黒政支局長)
2016年段階の中国における太陽電池導入量は34GWであったが、2017年は一気に53GWまで増加した。しかしながら2018年については40GWまで減るといわれており、何と26%減が予想されている。「補助金が付かないのであればやってられるか」とばかりに、事業撤退または縮小を決めるメーカーもいるだけに、実際のところは2017年に対し中国太陽電池は世界全体で40%以上下がるという悲観的な予測もあるのだ。
一方で、ウエハーについては単結晶比率が2年前まで24%であったが、18年についてはこれが40%に上がるといわれており、高効率タイプのみ補助金を出すという方針から、多結晶は徐々に減っていく傾向にある。世界の太陽電池ブームは中国がまさに補助金ばらまきを加速した結果として一気に伸びてきたが、何のことはない、補助金が削減されれば一気に減ってくるということなのだ。悲観的予測に立てば、4年後の2022年においても世界の太陽電池はたったの10GWしか増えず、110GW程度で推移するという見方も出てきた。
こうした話を聞いていて、筆者は補助金ばらまきによる中国の成長戦略が、ある種限界を迎えたのではないかとの印象を強くした。液晶については中国全土で15の新工場が立ち上がり、その投資額は3兆円であり、その90%は政府の補助金によるものである。そして今、半導体に関して2000億元の投資ファンドが2018年に組まれているとのことであるが、この補助金の財源が不足することは充分に考えられる。またリチウムイオン電池やLED照明にも補助金はばらまかれており、なんぼ何でも限界があるだろうと思えてならない。
“一帯一路”をめざす中国は
2018年11月に上海万博開催
「中国と日本は2000年には1人あたりGDPで40倍の差があったが、2017年には4.4倍に縮まった。これは驚くべきことだ。この中国の経済成長は、いつにかかって外資系企業の大量誘致と補助金ばらまきにあった。今後の趨勢がどうなるかは分からないが、一帯一路がどれだけ成功するかにかかっているだろう。それにしても1987年から1997年の約10年間は、日本の1人あたりGDPは米国を上回り世界一であったことを、もう一度私たちは思い返さなければならない」(黒政支局長)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。