ユニチカ(株)は、高分子セグメントの中でフィルム、樹脂、不織布事業を展開している。同社は、包装用ナイロンフィルムで世界トップレベルのシェアを誇り、不織布ポリエステルではアジア最大規模のメーカーとしてスケール展開を図っている。一方、樹脂は高付加価値品を手がける方針で、特定用途向けエンプラやスーパーエンプラなどのオンリーワン製品を展開している。このほど、フレキシブル有機ELディスプレーの基板向けに画期的な新しいポリイミド(PI)ワニスを開発した。従来のPIワニスの課題をクリアする特性の実現に成功し、同市場へ攻勢をかける。製品の特徴や事業展開などを樹脂事業部 機能樹脂第三グループ マネージャーの吉田猛氏に伺った。
―― 開発の経緯から。
吉田 2014年に海外のディスプレーメーカーからお声がけいただいたことで、フレキシブル有機EL向けPIワニスの開発に着手した。PIワニスは1990年代から研究開発を開始しており、複写機向けに採用が広がった。
現在はPIワニスのシリーズとしてA、B、C、Dシリーズをラインアップ。Aは複写機の定着ベルト向け、Bは自動車のマグネットワイヤーの耐熱性向上向け、Cは複写機の転写ベルト向け、DはFCCLなどの接着剤用を中心に展開している。
このなかでタイプARは粘度が5Pa・s、ガラス転移温度が400℃以上、熱膨張係数が4ppm/Kという特徴があり、同製品をフレキシブル有機EL基板向けにカスタマイズしたものが新製品だ。
―― 画期的な特性を実現しました。
吉田 現在使用されているPIワニスは、生産性の低さが課題に挙げられている。熱硬化して塗膜化する際、3~5時間かけてゆっくり行わないと気泡が出たり、塗膜がはがれるといった問題が発生する。これを抑制するため、PIワニスに添加剤を配合する方法が用いられるが、剥離が大変困難になってしまうというデメリットがある。
これらの課題を解決して生産性を向上させるため、ガラス基板に強固に密着しつつ剥離しやすいという、相反する特性を持つPIワニスを開発した。さらに、熱硬化の速度を当社従来品の3分の1~4分の1に短縮しても、高品位にPIワニスを塗膜化することが可能だ。通常は薄くすると剥離がより困難になるが、新製品は20μmでも容易に剥離することができ、かつ高品位だ。このため超フレキシブル有機ELディスプレーに貢献できるだろう。
詳細は非公表だが、タイプARをベースにして分子構造の設計や添加剤の配合にノウハウがあったことで、これらの特性を実現できた。
―― 貴社初のディスプレー向け材料ですか。
吉田 ディスプレー向けとしては、表面保護フィルムやセラコン工程紙などで高耐熱性ポリアミドフィルムやPETフィルムを展開しているが、PIワニスとしてディスプレー基板への製品展開は初となる。業界では最後発になるが、拡大すると予測される有機ELディスプレー市場をターゲットに、セカンドベンダーとしてでも食い込んでいきたい。新製品の生産設備は、既存のPIワニスと大部分が共通しているため、少しの設備投資で量産対応が可能だ。
―― 今後の展開は。
吉田 新製品の発表後、引き合いが徐々に増えている。お声がけいただいたディスプレーメーカーのほかにも積極的に展開していく方針だ。
最後発ではあるが、PIワニスについては知見があり、研究開発と生産、営業が1グループにまとまった体制で取り組んでいるため、お客様や市場ニーズを製品に反映しやすいことが当社の特徴だ。ほかの樹脂部門とも連携し、大手メーカーができない部分も小回りを利かせて様々なニーズを拾って対応していく。今後、透明ポリイミドの開発も視野に入っている。
(聞き手・澤登美英子記者)
(本紙2018年6月21日号6面 掲載)