電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞・情報紙誌のご案内出版物のご案内広告掲載のご案内セミナー/イベントのご案内
第252回

ジャパンディスプレイの正念場―アップル依存脱却への道


非モバイルは好調、有機EL量産は間に合うか

2018/6/8

 5月15日、都内にてジャパンディスプレイ(JDI)の2017年度(18年3月期)通期決算説明会が開催された。17年8月に発表した事業構造改革のとおり、通期で1437億円の特別損失を計上し、営業損失は過去最大の617億円と4四半期連続の営業赤字となった。特別損失のうち構造改革費用は1423億円で、当初見通しの1700億円からは約270億円改善した。

事業構造改革は17年度中に断行

 「17年度中に断行する。ここが正念場だ」と、17年8月に代表取締役会長兼CEOの東入來信博氏が述べたように、17年度いっぱいですべての事業構造改革を成し遂げた(表参照)。


 これにより、18年度は約500億円の営業利益改善効果が見込まれ、売上高は17年度比10~20%増、最大で約8600億円にまで回復する見通しだ。営業利益率は2~3%、当期純利益も黒字化を見込む。17年8月に発表した見通しでは、売上高6500億円をブレークイーブンとし、19年度に8000億円を想定しており、計画どおりに改革と経営改善への道を進んでいる。

構造改革の進捗と18年度の見通しについて発表する東入来氏
構造改革の進捗と18年度の見通しについて
発表する東入来氏
 断行するとの言葉どおり、構造改革についてはやり切った感があり、18年度からは利益創出に向けて邁進できる環境を整えた格好だ。18年3月には、海外機関投資家と日亜化学工業への第三者割当において、狭ベゼルディスプレーのフルアクティブパネルの後工程設備投資として、90億5000万円を充てると発表している。

有機ELの市場後退が追い風か

 惜しむらくは、次につながる一手を明確にできなかったことだろう。「有機ELに対する世の中の流れが変わった」(東入來氏)と言うように、まさに最大顧客であるアップルの有機ELモデルの期待外れ感が同社を救っている。

 iPhoneの18年モデルは、有機ELが2モデル、液晶が1モデルと言われているが、数量の比率は液晶モデルが7割に上るという。「18年度は第1四半期をボトムに、下期にはフル稼働となる」(同)とするのもうなずける。また、19年モデルにも液晶が採用される見通しで、「液晶はまだまだ残存する。有機ELと共存していくのではないか」と語った東入来氏の見立ても分かる。

 この有機ELの市場後退、液晶盛り返しの状況で、同社は蒸着型有期ELの量産化技術確立までに、当初の予定よりは1年ほど猶予ができた格好だ。当初18年3月末までに詰めるとしていた有機EL量産化の資金源となるパートナー企業探しは、18年度も継続する見通し。有機EL市場の動向を見極めながら、慎重にパートナー選びを進めるようで、急ぐ必要のない市況に変わったと判断したのだろう。

 これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、現状で同社のチャレンジする有機ELディスプレーの量産化のハードルは高い。

新方式で挑む蒸着型有機ELの量産化

 同社が開発を進める有機ELディスプレーの生産方式は、縦型蒸着+電鋳マスクで、現在量産されている水平蒸着+エッチングマスク方式と異なる。このため同社には、独自で未踏の地を切り開き、確立していかなくてはならないという高いハードルがある。

 縦型蒸着方式は、通常水平に置かれるガラス基板が縦になることで、生産スペースの省スペース化が図れ、その分をパネルコストに還元できることや、伸縮の影響を受けない電鋳マスクによる材料コストの低減メリットがあるとされている。しかしすでに、縦型はサムスンディスプレー(SDC)が過去に検証したことがあり、その結果をもって現在の水平方式にしたという経緯もあるようで、SDCが手がける水平方式でさえ各社が量産化に手こずっているなか、独自技術でパートナー企業を獲得できるほどの量産化技術が1~2年の間に確立できるかは不安材料だろう。

 また、リジッドタイプの有機ELの市場展開も気になるところだ。JDIが展開するフルアクティブは、アップルやシャオミーで採用されるように、低価格帯モデル向けではない。現状、スマホの伸びしろはミドルレンジにあるが、先進国地域ではすでに行き渡った感があり、市場成長は鈍化の一途だ。次の市場はインドや新興国であり、高品位の液晶ディスプレーの数量が増え続ける傾向にはない。

 一方で、リジッドタイプの有機ELは、ほぼ液晶レベルへの価格下落が進んでいる。調査会社DSCC(ディスプレイサプライチェーンコンサルタンツ)によれば、リジッドタイプの有機ELパネル(5.5~6型、FHD+)の価格は、18年に25ドル以下にまで下がる見通しで、これは17年の液晶パネルと同価格だ。今後、中国の有機EL工場が立ち上がってくれば、まずはリジッドの有機ELが大量に生産されるため、高品質な液晶がいつまでも各ブランドにおいてハイエンド品の地位を守っていられるとは考えられず、またミドルレンジにもリジッド有機ELは拡大していくだろう。

 これゆえ、JDIは有機ELの量産化を急ぎ、液晶だけでなく有機ELディスプレーとの両輪で進める必要がある。18年度、19年度とアップルからの液晶モデルの受注があるうちに、何としても有機ELの量産技術確立+量産資金源の確保を成し遂げなければならない。

車載向けが好調、トップシェアをキープ

 さて、屋台骨を支えるスマホ向けディスプレーを取り巻く状況を見ると、前述のように眉根を寄せてしまうが、同社の売上高の3割ほどを占め、成長している分野に目を向けると好調が続いている。特に車載向けは好調だ。

 JDIの車載向けディスプレーは、市場トップシェアを堅持している。調査会社のIHSマークイットによると、車載モニター用TFT液晶市場(出荷数量)における同社のシェアは、15年に16%、16年に17%、17年に19%と伸長し、かつトップシェアをキープ。2位以下が交代劇を繰り広げているという。

 17年のシェアは、2位にLGディスプレーとAUOが12%で並び、次いでイノラックスとシャープが11.8%、天馬が9.9%、CPTが8.7%としている。特に国内では「ほとんどがJDIではないか」(業界関係者)とのことで、四半期売上高は、前年同期比プラス成長記録を更新中だ。17年度は売上高1000億円を突破し、18年度は2桁の増収を計画している。

 また、このほど代表取締役社長兼COOに就任した月崎義之氏は、車載ディスプレイ本部の本部長を務めた人物。すでに発表しているように、同社はモバイルへの依存度を下げ、車載を中心としたノンモバイル製品の拡大を図っている。車載はモバイルと比べると数量は多くなく、採用までに年月を要するために早期の結果が見えづらいが、画面サイズは大型化傾向にあり、市場でトップシェアをキープし続けているのは好感触だ。

 なお、16年度の車載を含むノンモバイル分野の売上高は約1560億円、17年度は約1520億円だった。車載以外のディスプレーを扱うディスプレイソリューションズカンパニーの事業規模は500億円ほどで、20年度には1000億円規模にするとしている。車載事業は19年度に16年度比1.6倍にするとしており、20年度にはノンモバイル分野の売上高が少なくとも2500億円程度になる計画だ。

ノンモバイル分野はトップ製品がずらり

 車載以外のディスプレーでは、ハイエンドデジカメ向け、ウエアラブル向け反射型ディスプレー、VR向け、ハイエンドノートPC向けディスプレーなどを展開している。反射型ディスプレーは12年から生産を開始し、17年度には1000万台を出荷。デジカメはハイエンド向けをメーンに、市場シェア6~7割を獲得しているという。このほかVR向けでは、3.25型で1001ppiの高精細パネルを開発したと発表している。

 VR向けでも、液晶パネルに追い風が吹いている。近年はVRにも、応答速度の速さや色彩の美しさなどを理由に、有機ELの採用が流行った。しかし、小型画面における有機ELの高精細化は困難であり、応答速度よりも高精細であることが優先されて、再び液晶が盛り返しているという。JDIは、VRについては液晶での開発を続け、2.Xmmインチで1000ppi以上の性能を実現し、今後拡大が期待されるVR市場での早期トップシェア獲得を狙う。

 これら好調な製品を見ると、同社が磨き上げたLTPS技術が日本のものでなくなってしまうような事態は忍びない。まさにここが同社の正念場。ジャパンディスプレイの名前が名実ともに残っていくことを願う。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

サイト内検索