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第276回

エヌビディア インダストリー事業部 事業部長 齋藤弘樹氏


ロボティクス分野での展開を強化
国内外で採用が拡大

2018/6/8

エヌビディア インダストリー事業部 事業部長 齋藤弘樹氏
 NVIDIA(エヌビディア、日本法人=東京都港区赤坂2-11-7)は、GPU製品で世界トップシェアを誇り、近年はディープラーニングをはじめとしたAI(人工知能)用半導体製品を手がける「AIコンピューティングカンパニー」へと変貌を遂げ、圧倒的な存在感を放っている。現在、ロボティクス分野を注力分野の1つに据え、関連の取り組みを強化している。その内容をエヌビディアの日本法人でインダストリー事業部 事業部長を務める齋藤弘樹氏に伺った。

―― 貴社のロボティクス分野での取り組みから。
 齋藤 エヌビディアでは近年、GPU技術を活用した様々なAIコンピューティングプラットフォームを提供しているが、そのなかで今後、高齢化や生産年齢人口の減少が進むにつれ、AIを搭載したロボティクス技術の重要度が日本で高まってくると考えた。また、日本にはロボティクス関連でトップクラスの実績を誇る企業が多数ある。そこで2014年に、現在の日本代表の発案により、日本法人内にロボティクス関連の部門が組織され、本格的な展開がスタートした。現在は米国本社にもロボティクス関連のチームや研究部隊が組織化され、エヌビディア全体でロボティクス分野の重要度が高まっている。

―― 製品について。
3月に発表した「JETSON TX2i」
3月に発表した「JETSON TX2i」
 齋藤 ロボティクス製品などエッジ側にAIを組み込む場合は、エヌビディアのGPUを搭載したAIコンピューティングプラットフォーム「JETSON」が活用され、サーバーやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)などのAI処理には「Tesla」が対応している。
 JETSONについては3月に「JETSON TX2i」を発表した。過酷な環境でも信頼性の高い動作を実現するよう設計されたもので、産業用ロボット、マシンビジョンカメラ、ポータブル医療機器など、高い品質が求められるアプリケーション向けに最適化されている。

―― ロボティクス分野を展開するうえでの貴社の強みは。
 齋藤 ハードウエアだけでなく、エヌビディアのGPU用統合開発環境「CUDA」をベースにしたソフトウエアや開発支援ツールなども提供し、ロボティクス製品を開発するための総合的な環境を整備している。そしてその一環として「Isaac(アイザック)」の開発を現在進めている。シミュレーション、レンダリング、ディープラーニング技術を融合し、非常にリアルなVR(仮想現実)環境でロボティクス製品の実証・検証が行えるシミュレーターだ。シミュレーションの完了後は、その情報をAIベースのソフトウエアプラットフォームに提供し、実際の製品の性能向上に活かすことができる。
 ロボティクス製品は通常、導入前に実証実験を何度も行う必要があり、物理的なプロトタイプを使用する場合、多大な時間とコストがかかるが、アイザック内でのシミュレーションは現実感が非常に高く、素早い実行が可能となる。そのため、最終製品に加える調整が従来の開発に比べて少なく、開発の時間とコストを大幅に削減できる。

―― これまでの採用実績は。
 齋藤 国内ではファナック、トヨタ自動車、サイバーダインなどが当社の製品を活用したロボティクス製品の開発を進めており、海外では配達ロボットや農業用ロボット、ドローンなど幅広い分野で採用が増えている。また、これまでは実証段階の取り組みが多かったが、18年からは産業用ロボット関連を中心に実用化段階の取り組みが増えてくる予定だ。

―― 注力していることは。
 齋藤 学生や研究開発者向けのサポート体制も強化しており、ロボティクス関連では17年7月に愛知県で開催された「ロボカップ2017」への出展や協賛などを実施した。また、AI人材を育てるために、スタートアップの支援、トレーニングの提供、カンファレンスでの発信なども積極的に行っている。エコシステムの構築にも力を入れており、カメラ関連やキャリアボード、ソフトウエア関連など幅広いパートナーとの関係構築を進めていきたい。

―― 今後の方針をお聞かせ下さい。
 齋藤 エヌビディアでは、AIを様々な分野に普及・浸透させていくことを企業ミッションに据えている。そのなかでロボティクス分野にもかなり力を入れており、かつ長期間の視点を持った取り組みとして進めている。日本では今後、生産年齢人口の減少が進むなか、様々なものにAIを搭載しロボティクス化することは人手不足の解消、ひいては人々の生活や日本社会を豊かにする手助けとなるものであり、先に述べたような取り組みを通じてエヌビディアもその一助になっていければと思う。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2018年6月7日号11面 掲載)

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