電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第286回

8Kハイビジョンにかける中国BOEの夢はすばらしい


~今や世界最大の液晶メーカーは有機ELでも世界トップを狙う~

2018/5/25

 「BOEは、半導体・ディスプレーの世界リーダー、また、スマート製品とサービス分野のグローバル・リーディング・プレーヤーとなり、我々は世界で最も尊敬される企業を目指す」

 数年前のことであるが、筆者の実家筋にあたる横浜の蕎麦屋でこの言葉を聞いた時には驚いた。素直にかつ力強く語ったその人は、BOE(本社・中国北京市)の日本法人であるBOEジャパンの代表取締役社長、久保島力氏である。この時には「韓国のサムスン、LGに勝てるのかよ」という思いが胸をよぎった。そしてまた「台湾勢の怖さを知らねえな」とも思った。ところが、である。中国BOEは、電子ディスプレー分野に参入してわずかの期間で液晶の世界チャンピオンの座に就いたのだ。

 「当社の液晶パネルに対するお客様の評価が高いことが最大の要因だろう。現状でスマホ向けは世界シェア24%、タブレット向けは同38%、PC向けは同31%で、世界トップを走っている。テレビ向けとモニター向けは現状で世界第2位であるが、この分野もできるだけ早期に世界トップシェアを獲得したいと思っている」(久保島社長)

 BOEは、世界で唯一、世界最大のマザーガラス(3370×2940mm)月産能力12万枚の合肥10.5G工場を昨年12月に稼働し、3月からの量産も歩留まり80%以上でスムーズに立ち上がっている。次いで、武漢にも10.5G工場の新設を計画しており、この4月に着工した。これもまたマザーガラスで月産12万枚の能力を備えるものだ。

 そして次世代パネルの有機ELについても大型投資を続行しているのだ。BOEは6Gのフレキシブル有機EL工場を成都で稼働させ、また綿陽にも6Gフレキシブル有機EL工場を建設している。今後、有機ELのニーズに応じ、さらなる対応も視野に入れている。

BOEの8K実現のソリューション映像
BOEの8K実現のソリューション映像
 さて、ところでBOEが作り上げた8K実現の新たなソリューションの提案も注目を集めている。インターネット回線があれば、8Kインフラのない地域も8Kコンテンツを楽しむことができる。つまりは、8K専用のデコード・プレーヤーを作り上げ、なおかつ撮影、編集、エンコード、クラウドに至るまでのシステム全体を作り上げた。ユーザーはスマートフォンでコンテンツの選択・購入や再生コントロールが簡単にできる。

 「世界に先駆けてBOEが作り上げた8Kの98インチおよび110インチの超高精細液晶ディスプレーやコンテンツは、日本のCEATEC展アワードを2015年に受賞し、2017年には、デジタル・サイネージ・ジャパン展でグランプリを受賞している。また、リオ・オリンピックでは、唯一の地上波デジタル・ライブ中継ディスプレーに採用された。しかしながら問題は、世界中において8K放送はほとんど実現されていない。そこで考えたのが8K放送を受信できない世界の人々に、今、8Kハイビジョンの感動を体験してもらいたいということだ」(久保島社長)

 今回のコンテンツ製作、エンコード、配信、デコード、運営のソリューションはある意味、革命とも言ってよいだろう。デジタルサイネージ、医療の現場、美術鑑賞、さらにあらゆるエンターテインメントで使えるソリューションであり、このことで8K映像製作は間違いなく活性化するだろう。そして8K映像を使ったアーティストも多く誕生するだろう。BOEが8Kにかけた夢は実現目前なのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索