商業施設新聞
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No.656

行列


松本 顕介

2018/5/22

観光地は行列のメッカである
観光地は行列のメッカである
 一部の百貨店は、今年度の設備投資でPOSシステムを更新する予定だ。アリペイやウィーチャットペイ決済への対応を最新のものとし、“お待たせしないPOS”に切り替えるのだという。支払いで長い列を作る中国人訪日客に対応するもので、支払いのための行列に耐えきれず、買うのをやめてしまうことへの配慮と思われる。中国人訪日客が高級ブランドを買いまくる光景は今や影を潜め、化粧品の購買が目立つなど消費の姿は変わってきてはいるが、そこはなんといっても2017年訪日外国人トップの消費国。観光庁によれば、17年の訪日外国人消費額4兆4162億円のうち、中国人は1兆6947億円で38%を占め、第1位に君臨する。しかも買い物額に至っては、総額1兆6398億円に対して中国人は8777億円で実に半分以上の53%を占め、第2位の台湾(2184億円)に大差をつけブッちぎりの1位だ。そんなお得意様をお待たせして、みすみす逃してなるものかというところは頷ける。

 かたや、日本人は待つのが得意といわれ、それを文化だと指摘する向きもある。ラーメン屋、スイーツといった飲食店から、ゲームの新商品、オープンした1号店と枚挙にいとまがなく、最近ではiPhoneの新機種発売が印象深い。悲しいかな行列があるとなんだなんだと興味をそそられ、行列が行列を生んでしまうこともある。

 そんな行列は日常茶飯事だが、海外の人から見ると珍しい光景なのだという。割り込まない、怒らない、じっと待つ姿が海外のメディアからおもしろおかしく発信されるのを時折目にする。日本のメディアも訪日客にマイクを向けてコメントを求める。ある欧米の女性は「シンジラレナイ」と驚きの表情で、自分なら飲食店で待ち時間は最大2分とうそぶく。だが、案外並んでいた方がどのメニューにするか熟考する時間的余裕が生まれるのだ。何も考えずぱっと目についたものを選んだところ、その横にもっと自分好みの商品があることも少なくない。

 もちろん、日本人にも行列嫌いは存在する。筆者のまわりにもいる。しかし、「行列ができる×××」が定着しているところを見ると、やはり日本人は総じて行列を苦にしないのではないかと思う。開業した商業施設は初日に何人並んだかが注目のバロメーターになる。並んでいる人の表情はどこか期待感が滲み出ている。人が多くて嫌だ、混雑してイライラするというマイナス要素はあるが、行列は賑わいの裏返しでもある。

 もうじき世界的なイベントであるオリンピック・パラリンピックが東京で開催される。開催期間中は数々の行列の光景を目の当たりにするだろう。訪日外国人の方々にも日本人の行列文化を楽しんでいただきたい。
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