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第269回

東北大学 教授 国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長 遠藤哲郎氏


混載用途でMRAMの実用化目前
新方式で大容量化の道開く

2018/4/20

東北大学 教授 国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長 遠藤哲郎氏
 次世代メモリーの有力候補であるMRAM(磁気変化メモリー)の研究開発で著名な東北大学が、CIES(国際集積エレクトロニクス研究開発センター)を設立して今年で6年目を迎えた。DRAMの微細化限界が迫るなかで、産業界もMRAMが実用段階に入ることを切望している。スタンドアローンメモリーとしての本格採用は2020年以降と目されるが、マイコンなどの混載メモリーとしては本格採用を目前に控えた状況だ。センター長を務める遠藤哲郎教授に、これまでを振り返り、今後の展望を語ってもらった。

―― CIESは今年で設立6年目を迎えました。これまでを振り返って。
 遠藤 端的にいえば、予想以上の成果を出すことができたと思っている。半導体メモリーの研究者である「メモリー屋」の私にとって、CIES設立当初に考えたのが、研究テーマとしてMRAMと3D-NANDのどちらを据えるかということであった。ともに将来性が高いメモリーデバイスであったが、当時から3D-NANDはリアリティーがあるデバイスで、大学で扱うフェーズではないと考えた。

―― MRAMを選んだのはなぜですか。
 遠藤 MRAMの方が大学の研究テーマとしてふさわしいと思ったのが一番だが、それ以上に裾野の広がりを期待できたからだ。MRAMはスタンドアローンメモリーとしてだけでなく、混載メモリーなどのロジック分野への応用もある。また、磁性体という新しい材料を扱う意味でも、装置・材料面での広がりも期待でき、センター設立時の構想である装置・材料業界とのコラボレーションというコンセプトにも合致していた。

―― MRAMを選んだ判断は間違っていなかったですか。
 遠藤 もちろんだ。今回4回目を迎えたCIESのテクノロジーフォーラム初日の招待講演で、サムスン電子やグローバルファウンドリーズ(GF)といった業界トップの企業が登壇していることからも分かるとおり、我々のやってきたことは間違っていなかったと自信を深めている。大学の一部局が主催したシンポジウムに半導体業界のトップ企業が講演するのは、それだけでもすごいことだと感じている。

―― 現在の参画企業規模は。
 遠藤 MRAMプロジェクトとして世界最大規模と考えている。これに加えて、GaN on Siパワーエレクトロニクスのプロジェクトが立ち上がってきている。

―― MRAM研究において、数多くの成果を発表していますが、この6年間で最も画期的なものは。
 遠藤 やはり「界面磁気異方性」を用いたCoFeB(コバルト鉄ボロン)/MgO(酸化マグネシウム)磁気トンネル接合(MTJ)だ。従来は面内磁化のためセル性能が悪かったが、CoFeBという安価な材料で垂直磁化型MTJ素子を作製できたことが大きく、欲しい性能が出せるようになってきた。このコンセプトをもとに、CIESで界面磁気異方性ベースの300mmプロセスラインを取り揃え、ここ最近の成果につながっている。

―― 産業界ではMRAM混載のマイコンが実用化を目前に控えています。
 遠藤 今回のシンポジウムでも、サムスンやGFにはまさにMRAMの混載応用について講演してもらった。現行のフラッシュメモリーを用いたマイコンではこれ以上のスケーリングが難しく、これをMTJ素子で置き換える流れがトレンドとなりつつある。
 加えて大きいのが、マスク枚数を劇的に減らすことができることだ。例えば、28nm世代のマイコンでは内蔵フラッシュ向けの追加マスクが18枚も必要になるが、MRAMの場合ではこれが3枚で済む。こうしたメリットから、大手ファンドリーのプロセスロードマップでは、28/22nm世代のプロセスラインアップからフラッシュマイコンが姿を消している。

―― 混載メモリー分野ではReRAM(抵抗変化メモリー)なども候補です。
 遠藤 NORフラッシュの単純な置き換えだけならReRAMでも十分だが、MRAMを使うことでそれ以上のメリットを得られる。具体的には、昇圧回路を省くことができる。CMOS回路が1~3.3Vで駆動するのに対し、NORフラッシュは12Vに昇圧する必要があり、電力を多く消費する。ReRAMもNORに比べて低いが、それでも3~7Vまで昇圧する必要があり、CMOSの製造コストは下がらない。これに対し、MRAMは1Vで駆動することができ、高電圧系のトランジスタがまったく不要で、CMOS製造コストの軽減にも大きく寄与できることが特徴だ。

―― スタンドアローンメモリーとしての実用化は。
 遠藤 18年にJSTのOPERAプロジェクト(領域統括:遠藤哲郎教授)にて、大野英男教授が中心になって発表した「形状磁気異方性」という新方式によって、これまで難しかった10nm以下のデバイスでも良好な保持特性が得られるようになり、大容量化に向けて大きな道が拓けてきた。従来は30nmを切るところぐらいが限界で容量も4Gビットにとどまっていたが、この新方式を採用すると、100Gビットを超えるワーキングメモリーも夢ではなくなってきた。

(聞き手・副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2018年4月19日号3面 掲載)

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